研究課題/領域番号 |
16K01594
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
長澤 純一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40228002)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 心拍変動 / 低酸素 / 登山 |
研究実績の概要 |
「研究の目的」低酸素環境における自律神経系の影響は,HRV(心拍変動)を用いて多く解析されてきているが,ほとんどが高度3,000mよりも高い標高のデータである。急性高山病は,個人差はあるものの,人によっては1,500m程度でも,急性高山病の症状である頭痛を訴える人が出ることから,3,000mよりも下の高度での生体機能の変化を検出することに価値があると考えられる。本研究では常圧低酸素室を用いた実験で3,000 mよりも低い酸素濃度についてHRVをサンプリングし,特に非線形解析を用いて生体負担を精査した。 「今年度の研究方法」 実験は5日に分け,25℃に設定した低酸素室(1日目:19.7 %, 2日目:14.6 %,15.6 %,3日目:18.7 %,19.2 %,4日目:16.6 %,17.5%,5日目:14.3 %,15.1 %)にて,仰臥位10分,起立6分の心拍変動測定をPolar v800で測定した。指標として,SampEn,Detrended fractual analysis(α1),Shannon Entropy(ShEn)を算出した。仰臥位においてはRMSSD (時間領域)HF(周波数領域)およびでは変化は認められなかった。同様にLF/HFの変化も認められなかったが,SampEnは仰臥位において低酸素になるにつれ上昇する傾向を認めた。一般的に高地では交感神経が活性化し、副交感神経活動が低下するとされる。 「今年度の結果」 以上の結果,自立神経に対する影響は,3,000m級の高度までは,低酸素の影響が軽微であるが,心拍の複雑性を高める適応(SampEn)が生じていると考えられた。今後,環境変化,低圧であることの影響について実地踏査を含め検討を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
登山が生体に及ぼす効果については,低酸素環境であることのみならず,低圧,温度差,紫外線,複合的な筋収縮様式などが含まれるため,実地調査によらないと有用・有意義な研究成果を得られない。本研究では,低酸素ストレスと酸化ストレスのかかる環境での身体運動という登山の運動様式に着目し,① 一般者を対象に,富士登山全行程にわたり,HRV 法を用いて自律神経機能を評価する,② トレイルランナーと一般者について,HRV の特徴を検出することを通して,“登山に対する強さ”を定量する。 フィールドには,単独峰として標高との関係を示しやすく,整備された登山道を有する日本一の山として,主として富士山を対象とする。28年度は,その基礎的な資料収集(低酸素自体の生体負担調査)をおこなったもので,低酸素以外の環境因子の関与を明確にするために,28年度のデータをもとに実地踏査にあたっていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
SpO2 の程度は,AMS の予測も反映もしないとされるが,一般に富士山では2,500m付近,SpO2 が90%を下回る水準からAMS の症状が顕れてくることが知られており,鍛練者では,登山に対する強さを示す一指標になっている。この現象そのものには学問上の新奇さはないが,種々標高で身体運動を行わせたときのSpO2 ならびにHRVの変化量を,鍛練者と一般人を比較すること,すなわち,「高所での運動 (ステップテスト) 強度の上昇」と「SpO2 ならびにHRV の変化量」には鍛練度に依拠した関係があることを明らかにすることによって,“登山に対する強さ”の出所を定量的に証明する。 登山にかかる環境要因は,低酸素ストレスと酸化ストレスからなる複合的ストレッサーであり,登山に特有な身体疲労ならびに運動制限因子になっていることは疑いがない。登山時の疲労はHRVパワーの減少量として評価できる(仮説)ことについて,そのマーカーとしての妥当性を立証し,登山の高度な鍛錬者と比較検証することで,“登山に対する強さ”の出所を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属(大学)が変わることになり,年度末に消耗品購入等をおこなわなかったことによる。残額は事務用の小物およびピペットチップなど次年度すぐに利用するための消耗品購入に必要な額として比較的少額なもので,昨年度の研究本体への影響は無い。
|
次年度使用額の使用計画 |
残額は移管手続きをし,費目通り,消耗品等の購入に充てる。
|