椅子の立ち座り動作における動作の特性(1年目)や腹腔内圧(腹圧)と血圧上昇からみた安全性(2年目)について、若年者から高齢者を対象に実施した。1年目は、50歳代15名、60歳代23名、70歳以上29名を対象に、10回連続いす立ち座り運動における立ち上がり速度を検討した結果、50歳代よりも60歳代以降に速度が顕著に低下するものの、連続10回の動作速度は低下することなく維持されること、2年目は、椅子の立ち座り動作に負荷抵抗を加えた上で腹圧の変化や、高齢者への安全性を心拍数や血圧などの応答から検討した結果、腹圧の上昇は負荷抵抗により増加するが自体重負荷では低いこと、この動作は高齢者にとって心拍数や血圧を上昇させるが、動作速度や筋収縮様式をコントロールすれば安全であることを明らかにし、トレーニングとして有用であることを示した。最終年度は、これら研究結果を基にトレーニングへ応用し、70歳以上の高齢者を対象に短縮性あるいは伸張性の筋収縮を強調したトレーニングが日常生活動作能力に及ぼす影響について検討した。高齢者の男女18名に12週間 、週1回の伸張性トレーニング(ECC-T 群11名:79±4歳)あるいは短縮性トレーニング(CON-T群 7名:76±5歳)を実施した。各トレーニング10回3セット実施し、前後に6種目(10m速歩、握力、開眼片脚立ち、階段昇段・降段時間、10回いす立ち座り時間)の効果測定を行った結果、握力や開眼片脚立ちは改善効果が認められなかったものの、ECC-Tは階段昇段・降段、CON-Tは10m速歩で有意な時間の短縮がみられた。高齢者であっても動作特異的なトレーニング効果が得られることが明らかになった。総じて、椅子の立ち座り動作は、加齢により低下するものの、10回程度では疲労の影響が少なく、心拍数や血圧の変化をみても比較的安全で有用なトレーニングであることが示された。
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