本研究は、平成28年度~30年度の3年間で実施された。本研究の最終的な目的は、学校体育の教師や競技スポーツの指導者が備えているべき専門的指導力の一つである「交信分析能力」の養成方法論の構築に向けた基礎資料を得ることであった。 平成30年度は、当初の研究計画にしたがって、大学生を被験者とする交信分析能力の養成実習を例証とする事例研究により、この能力の養成方法の検討・提示を行うことにしていた。しかし本研究をより深化・発展させるために、この交信分析能力の志向構造についてより詳細な検討が必要だと考えられた。そのため30年度も、29年度に続いて、運動指導現場における指導者と学習者の具体的な動感交信事例を例証として取り上げ、その実り豊かな交信分析の構造的特徴を明らかにしようとした。具体的にはサッカーの指導者とチームメンバー全員が醸し出す雰囲気の現象学的な解明と並行して、指導者と選手のあいだの動感交信に関して、それが有効に機能する上で何が必要な要因なのかについて明らかにしようとした。また大学体育としての器械運動において、前方倒立回転とびがなかなか習得できなかった学生への指導事例を分析するなかで、そうした学生とのあいだで実り豊かな動感交信を実施する上で、指導者側が超越論的立場に立って相手の間違った動感志向性を構成分析することの重要性とその特徴が明らかにされた。 なお、これらの研究を通じて、ある一定の成果を上げている指導者が実際の指導実践において「どのように交信分析を展開しているのか」ということを明らかにでき、当初予定されていた事例研究で明らかにしようとしていた〈交信分析能力の向上をもたらすきっかけとなる指導経験〉がどんなものであるのかということについても一定の示唆を得ることができた。この研究成果は、この能力の養成方法論やテスト方法の開発に非常に有意義な知見だと考えられる。
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