本年度は、昨年度明らかにされた発達障害児が自然体験療法プログラムにおいて社会性を獲得してゆくプロセスについて再検証した。また、発達障害児の社会性の獲得を可能にする自然体験療法プログラムの特質を検討した。研究の対象とした自然体験療法プログラムは、社会教育施設が主催する令和元年に実施した1泊2日の事前キャンプ(7月)と縦走登山をメインプログラムとする12泊13日の本キャンプ(8月)であった。調査対象者は、当該プログラムに参加した発達障害児3名(男子2名、女子1名)であった。また、キャンプには15名の定型発達児も含まれていた。調査は、本キャンプにおいて対象児3名に加え対象児のグループに所属する定型発達児について参与観察を行った。参与観察データから、対象児がプログラムの中で社会性を得てキャンプに適応していく過程について検討した。事例の分析からプログラムにおける社会性を伴う適応のプロセスを検討した。その結果、日常的に表出している問題行動を反復的に示す①不適応的な自己の段階、次に、問題行動をめぐる集団内の葛藤が生じることによって、自己と他者への意識が高まる②他者への意識の生起の段階、③自己への注目の段階である。そして、他者との関係や対処の方法を模索するような④社会的行動の試みの段階へと移行する。さらに、プログラムを通じて起こるエピソードを繰り返しながら、集団内の他者との折り合いをつけるようになる。すなわち、⑤前適応的自己の段階を経て、さらに他者との相互理解が高まるような⑥相互浸透的自己の段階へ進展することが明らかにされた。そして、このようなプロセスを可能にするプログラムは、アセスメント(見立て)プログラム、構造化プログラム、リスクを伴う自然体験プログラム(実存的体験)、グループによるプログラム(不協和体験)、共体験プログラムが明らかにされた。
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