研究課題/領域番号 |
16K01614
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
古田 久 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (80432699)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2022-03-31
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キーワード | 運動不振 / 運動が苦手 / 自由度 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染拡大により当初予定していた実験を全く遂行することができなかったため,本年度の主な研究実績は,北関東体育学会第8回大会(令和3年2月21日オンライン開催)でコーディネーター及び演者として登壇したシンポジウム「身体運動の巧みさ・不器用さの心理学と運動指導」における発表のみである。その概要は下記の通りであった。 運動の制御・学習・発達を考える際には、競技経験者や熟練者に代表される「巧みさ」と、DCDや運動不振に象徴される「不器用さ」の両面から見ることの重要性を指摘し、情報処理的アプローチとダイナミカルシステムアプローチの2つの立場から関連する研究を紹介した。情報処理的アプローチの立場からは視覚に関する研究について述べた。格技や球技種目などでは、従来から視覚(眼)の重要性が指摘されているが、動体視力等の視覚的能力(視覚のハードウェア)と視覚探索行動や予測技能等の情報処理方略(視覚のソフトウェア)に着目した研究に分類できる。運動の巧みさ・不器用さとの関連は視覚のハードウェアよりもソフトウェアの方が強いといえるが、「眼の基礎体力」と言われるように情報処理の土台としてのハードウェアの役割は無視できない。この点を踏まえ、情報処理プロセスにおいてパフォーマンスを規定する要因(ボトルネック)を1つずつ解消することが重要と考えられる。他方、ダイナミカルシステムアプローチの立場からは、自由度の凍結と解放が重要である点を指摘した。DCDのような不器用な児童は、健常児と比較して、自由度が凍結されたままで、自由度の解放による新たな運動パターンの探索ができないことが捕球課題において実験的に示されている。これは、悪い運動パターンで固まっている可能性があるため,それを崩して,再構成させることが重要であることを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題を含む運動不振学生に関する一連の研究は6つのステップから構成される。ステップ1 で,大学生版の運動不振尺度を作成し,運動不振の判定法を開発する。ステップ2 で運動不振学生の体育授業における「つまずき」経験を検討し,運動不振を呈する者が苦手とする運動課題を明らかにする。そしてステップ3・4で球技系の運動課題,ステップ5・6 で,非球技系の運動課題における運動不振学生の動作を自由度の観点から分析するという計画である。 本来、本年度は最終年度であったため、全ての研究が完了している予定であった。しかし、年度始めから新型コロナウイルス感染拡大により当初計画していたヒトを対象とした実験を全く遂行することができなかった。そのため,研究期間をさらに1年延長し、研究の完了を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,実験参加者や補助者などの研究関係者の新型コロナウイルスへの感染予防を徹底しながら研究の完了を目指す。 令和3年度の研究計画では,引き続きバレーボールのアンダーハンドパスの動作の解析と縄跳び動作の解析を行う。熟達のプロセスにおいては,動作の変動と安定が繰り返される。このことは,練習の中で関節運動間の連結と独立により,自由度の凍結と解放が行われていると解釈できる。しかし,運動不振学生は,自由度の解放が遅い又は認められない等の非運動不振学生とは異なる制御方略を用いることが仮説として考えられる。 参加者は,アンダーハンドパス及び縄跳びのそれぞれの課題において運動不振学生8 名程度及び比較対象としての非運動不振学生8 名程度とする。運動不振学生の抽出には,大学生版運動不振尺度(古田, 2016)を用いる。デジタルビデオカメラ3台を用いて参加者の動作(アンダーハンドパス及び縄跳び)を撮影し,画像解析プログラムFrame-DIAS5を用いて解析する。以上の手続きによって得られたキネマティクスデータをもとに,相互相関係数を算出し,複数の関節動作間の関連を分析する。また,パフォーマンス指標(回数等)における違いも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により実験を遂行できなかったため若干の残額が生じた。少額であるので次年度に消耗品費として使用する。
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