研究課題/領域番号 |
16K01614
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
古田 久 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (80432699)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2023-03-31
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キーワード | 運動不振 / 運動が苦手 / 自由度 |
研究実績の概要 |
今年度も新型コロナウイルスの感染状況が改善されず,当初予定していた実験を全く遂行することができなかったため,本年度の主な研究実績は,第5回(2021年度)広域科学教育学会(令和4年7月4日オンライン開催)での小講演「身体運動の巧みさ・不器用さの心理学と運動指導」のみであった。その概要は下記の通りであった。 まず背景として,スポーツ科学や体育学の分野で,スポーツ熟練者や競技経験者の巧みな動きに多大な関心が向けられてきた一方で,小学校学習指導要領(平成29年告示)解説体育編に「運動(遊び)が苦手な児童への配慮の例」が記載されるなど,不器用等の理由により運動を苦手とする学習者に対する関心が高まっていることに言及した。 次に,情報処理的アプローチの立場から,身体運動の不器用さを説明する理論として内部モデル障害説があること,及び身体運動の巧みさ・不器用さと視覚情報の処理に関する研究を紹介した。特に後者については筆者のこれまでの実験データや論文を引用しながら,動体視力等の視覚的能力(ハードウェア的特性)よりも予測技能や視覚探索方略などの情報処理方略(ソフトウェア的特性)の方が運動の巧みさ・不器用さとの関連が強いことを指摘した。 そして、ダイナミカルシステムアプローチの立場から、運動の学習においては運動の自由度の凍結と解放が重要である点を指摘した。DCDのような不器用な児童は、健常児と比較して、自由度が凍結されたままで、自由度の解放による新たな運動パターンの探索ができないことが捕球課題において実験的に示されている。これは、悪い運動パターンで固まっている可能性があるため,それを崩して,再構成させることが重要であることを意味している。 最後に,運動不振やDCDに関する研究が小学校体育における運動が苦手な児童の指導に有益な示唆を提供できることを示して,講演のまとめとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題を含む運動不振学生に関する一連の研究は6つのステップから構成される。ステップ1 で,大学生版の運動不振尺度を作成し,運動不振の判定法を開発する。ステップ2 で運動不振学生の体育授業における「つまずき」経験を検討し,運動不振を呈する者が苦手とする運動課題を明らかにする。そしてステップ3・4で球技系の運動課題,ステップ5・6 で,非球技系の運動課題における運動不振学生の動作を自由度の観点から分析するという計画である。 本来、本年度は最終年度であったため、全ての研究が完了している予定であった。しかし、今年度も引き続き新型コロナウイルスの感染状況が十分に改善しなかったため当初計画していたヒトを対象とした実験を全く遂行することができなかった。そのため,研究期間をさらに1年延長し、研究の完了を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は,実験参加者や補助者などの研究関係者の新型コロナウイルスへの感染予防を徹底しながら研究の完了を目指す。 令和4年度の研究計画では,引き続きバレーボールのアンダーハンドパスの動作の解析と縄跳び動作の解析を行う。熟達のプロセスにおいては,動作の変動と安定が繰り返される。このことは,練習の中で関節運動間の連結と独立により,自由度の凍結と解放が行われていると解釈できる。しかし,運動不振学生は,自由度の解放が遅い又は認められない等の非運動不振学生とは異なる制御方略を用いることが仮説として考えられる。 参加者は,アンダーハンドパス及び縄跳びのそれぞれの課題において運動不振学生8 名程度及び比較対象としての非運動不振学生8 名程度とする。運動不振学生の抽出には,大学生版運動不振尺度(古田, 2016)を用いる。デジタルビデオカメラ3台を用いて参加者の動作(アンダーハンドパス及び縄跳び)を撮影し,画像解析プログラムFrame-DIAS5を用いて解析する。以上の手続きによって得られたキネマティクスデータをもとに,相互相関係数を算出し,複数の関節動作間の関連を分析する。また,パフォーマンス指標(回数等)における違いも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染状況が改善しなかったため,実験を遂行できず次年度使用額が発生した。次年度使用額は少額であるため,消耗品費として使用する。
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