本研究では,体育(小学校)、保健体育(中高等学校)において,ジェンダー視点から周辺化される人々に視点を当て,1)学校期において運動やスポーツから離脱する人々の経験 2)性的マイノリティとして困難を味わってきた人々の経験 を通して体育カリキュラムのジェンダー・ポリティクスを検討することを目的とした. 研究方法は,国内外の先行研究調査を進めつつ,①大学での一般学生を対象とした質問紙調査対象 ②承諾を得られた対象者へのインタビュー調査 を柱とした. 量的調査の結果から,競技スポーツを中心に内容構成される体育や運動部活動が「規範的男性」にとって居心地の良い場として機能し,その恩恵を十分に受けられない「規範的女性」の参加意欲や参加率は相対的に低い傾向が見られた.また,「規範的でない性」は性別二元制や異性愛主義を内包する近代スポーツの特徴から,体育や運動部活動に居心地の悪さを感じたり,そこから離れる傾向のあることが推測できた. 体育嫌いの傾向を示す大学生へのインタビュー調査から,「貧弱な運動経験」「低い技能・体力」「嫌な思いをした経験」「ネガティブな感情」が連鎖する負のスパイラルが見出された.また,体育カリキュラムが高いパフォーマンスや集団性に価値を置くことによって,対象者は低い技能や体力が仲間の目に晒される嫌な思いをした経験をし,異なる価値が認められないことへの違和感を抱いていることが認められた. 一方,性的マイノリティへのインタビューでは,深刻な身体的暴力や暴言は報告されないものの,語られないことの問題性が浮かび上がった.「LGBT」が社会的に大きく取り上げられ注目されるようになった今日でも,非規範的性をもつ生徒の存在が不可視化,例外化されている.これによって差別構造として認識され難く,当事者もその問題性を明確に認識し,訴えることが難しい状況が推測できた.
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