2018年度は、資料調査を継続するとともにさらに分析を進めた。調査では、野外教育の内実を示す史料を多数収集できた。また、個別実践について、地域的な差異や共通性に注目しながら比較史的分析を進め、各実践の固有性や独創的な点、共通する点、及び総体的特質を明確にできた。 期間全体の成果は以下の通りである。先ず、昭和初期に全国で実施された事例を精査することにより、郷土教育において、地域の生活・産業調査、史跡調査など野外での探求的な活動や、地誌の作成等が実施されたこと、これら固有の地域教材の活用により、一定の地域性を有する活動が展開され各地の野外教育に地域的特色が付与されたことが明確になった。 また、大正期から昭和初期の連続性も検討した。大正期は、虚弱児向けの海外の野外教育を参考に、健康増進を柱として定型化したプログラムで野外教育が実施される傾向にあった。一方で、教員のみならず、医師や社会事業家、芸術家など多様な職種の人々が参画し、様々な問題意識から教育方法・環境を改良する意図から野外教育が展開された点も特徴であった。このため、大正期の野外教育は、一定の型を形成しつつも、体育の他に、知育、徳育、芸術など多様な目的・方法を受け入れる土壌が形成された。さらに、昭和初期には学校衛生制度が拡充し、衛生関連の目的は日常の教育活動でも実施可能になったため、学習面での教育を目的とする野外実践も増加していく。結果、昭和初期には郷土教育運動と結びつきながら、地域的特色を活かした野外での教育が多数実施されることになったといえる。 この他、大正期から昭和初期の野外教育は、明治期の野外活動など、源流となる活動の特質がある程度継承された点も明確になった。このため、近代日本の野外教育の歴史を明らかにするためには、明治期から昭和戦前期までを一体的に分析する必要性があるといえる。この点については今後の課題とする。
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