研究課題/領域番号 |
16K01637
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研究機関 | びわこ学院大学 |
研究代表者 |
奥田 愛子 びわこ学院大学, 教育福祉学部, 教授 (70556000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スポーツ原体験 / 原風景 / 自己展開性 |
研究実績の概要 |
本研究は、後年のスポーツライフにおける発達早期の原風景やスポーツ原体験などの自伝的記憶の連続性について検討することを主要な目的としている。各個人にとって選択的に想起された記憶が、その発達過程においてどのような連続性を持ちうるのかを検討することは、アスリートだけでなく、レクリエーションや健康促進を目的とした運動実践者の心理行動面での理解や予測においても重要な視点と言える。 今年度は、高校生を対象として運動の内発的動機づけに関わる運動有能感に着目し、運動有能感の高い者の自伝的記憶の特徴について明らかにすることを目的とした。 高校生271名を対象に運動有能感尺度と自伝的記憶に関する調査を行った。そして運動有能感尺度の得点平均値からの隔たり(±1.5SD)を手がかりに、運動有能感高群21名(以下、有能感高群)と運動有能感低群23名(以下、有能感低群)を抽出し、彼らの自伝的記憶を両群間で比較検討した。すると、その結果は総じて本研究者らの「学生アスリートと非アスリートの比較」(奥田・中込2016)や、「スポーツに対する態度との関係」(奥田・中込2017)における検討結果とほぼ同様の傾向が認められ、発達年代に差異があっても競技的スポーツ活動の参加者、そしてスポーツに対する積極的あるいは好意的態度を持つ者は、自伝的記憶の内容と現時点でのスポーツ活動への関わりとの間に連続性が認められた。さらに「原体験の自己展開性」(新保2001)の視点からは、運動有能感の高い者は、原風景やスポーツ原体験を始点とした数多くのスポーツに関わる体験において、運動有能感のネットワークを拡大・蓄積してきていると特徴づけられた。総じて現時点での運動に対する自信(有能感)は、原風景やスポーツ原体験を始点とする「原体験の自己展開性」の程度が身体経験の連続性を生み出し、それはアイデンティティの一部を構成していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通り、今年度は運動・スポーツ活動を極端に苦手とする青年期にある者の自伝的記憶の特徴を探り、本研究課題である現時点でのスポーツライフとの重なりを確かめるとともに、自伝的記憶の連続性に迫ることができている。しかしながら、体験の連続性という点での確かめに課題を残していることから、計画以上と判断することはできない。
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今後の研究の推進方策 |
今後はスポーツ原体験や原風景といった自伝的記憶を始点としたその後の歩みが“何とつながっているのか”や、“どのようにつながっているのか”といった“つながり方”(自己展開性)について、きめ細かく確かめていく必要がある。本研究者らは、これまでに個別の発達過程での主要なエピソードを抽出し、それらのプロセスやつながりを時系列的に図示したスポーツライフヒストリーの「系統樹」を作成する方法を試みてきているが、これらをさらに“つながり方”(自己展開性)に焦点づけた研究資料の収集の工夫や分析結果の表記、あるいは視覚化の工夫が求められることになる。研究方法としては、特徴的な対象者へのナラティブアプローチによる事例研究が主体となっていく。
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