後年のスポーツライフにおける発達早期の原風景やスポーツ原体験などの自伝的記憶の連続性について検討することを主要な目的として、今年度は長期にわたり同一種目を継続した一卵性双生児アスリートの自伝的記憶(エピソード記憶)を手がかりとして、彼らの内的体験の特徴を明らかにしようとした。 自由記述および個別面接調査で語られた自伝的記憶の内容を分析した結果、彼らの原風景はいずれも運動要素を多く含む力動性の高い内容であり、双生児間でお互いの存在を含む内容であった。原風景の今への影響については、多くが情緒的側面との関わりに言及し、それらは競技者心性(中込2004)として求められるパーソナリティへと通ずる特徴であった。つまり幼少期の体験が内在化され、アスリートとして活躍する推進力となっていることが考えられた。スポーツ原体験では、多くが後年の競技活動との重なりがみられ、想起された成功および失敗体験等に伴う当時の情動体験は、内的体験としてその後の競技への原動力や推進力となったことが想像された。 さらに、それぞれの自伝的記憶の多くに認められた互いの存在から、きょうだい間で体験を共有していることが考えられ、早期の体験ないしは記憶事象が内在化し、後年の高度な競技活動へと繋がる(自己展開する)過程での双方の存在、および競技継続の過程における双生児きょうだいの存在が、早期の体験と後年の有り様との結びつきを強めたことが考えられた。 双生児きょうだい間ではお互いが鏡となって刺激しあう相補的な関係であり、同様の自伝的記憶内容であっても、その意味づけの違いが後年の競技活動の取り組みにおける差異を生み出すことにつながるものと思われた。 さらに、双生児アスリートのきょうだい間で展開される関係は、アスリートにとっての重要な他者となる指導者にとっては、選手との望ましい関係を考える上でのロールモデルとなるものと考えられた。
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