研究課題/領域番号 |
16K01639
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研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
迫 俊道 大阪商業大学, 総合経営学部, 准教授 (40423967)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | なぞり / 同調 |
研究実績の概要 |
平成28年5月から9月にかけて広島県広島市佐伯区五日市町石内で十二神祇神楽を継承している石内神楽団に対する参与観察を実施した。研究実施計画で予定していたように、神楽の練習において、指導者と学習者の間で展開される「なぞり」に関する相互作用の実践場面の映像収集を行った。「なぞり」についてはインタビュー調査を平成29年度に実施予定であり、インタビュー調査の質問項目を精査するために、予備調査として指導者に対するインタビュー調査を行った。 伝統芸能の稽古の過程における「なぞり」の潜在化した構造の具体層を描き出すという研究目的のために、国立国会図書館等を利用して、これまでに執筆された「なぞり」や「運動技能の習得過程」に関する研究資料の収集を行った。これらの資料には身体論研究者である市川浩の「同調」に関する考察が含まれている。市川の「同調」についての指摘はスポーツ社会学分野において亀山佳明が展開する身体論の「同調」理論とも関連しており、「なぞり」の構造を明らかにするために重要な知見であると推察された。 「なぞり」を主題として扱った文献および研究論文は多くは認められず、著書の中でも部分的な言及が見られる程度であった。そのため、本研究を推し進めていくにあたって「なぞり」概念に近接していると思われる議論の内容を幅広く確認する必要が生じた。平成28年8月に日本体育学会、9月、10月にスポーツ指導や創造性に関するワークショップ、平成29年3月に九州レジャー・レクリエーション学会、日本スポーツ社会学会、幸福学に関するシンポジウムなどに参加した。これらの学会、ワークショップ、シンポジウム等を通じて、「なぞり」の構造に関わる情報が収集できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査対象となる神楽団に対しては先行研究において調査協力を依頼し、引き続いて参与観察が可能であることが事前に確認できていたこともあり、十二神祇神楽の練習模様(「なぞり」に関する指導・学習)の映像収集についてはこれまで順調に進んできている。調査対象組織では過去に指導的役割を担ってきた者が事情により、平成28年度は指導者として限定的に関与することとなったが、新たに指導的な立場として関わる者が指導を行うようになった。 平成29年度に実施予定のインタビュー調査の項目に関しては、予備調査として指導者に対するインタビュー調査を実施済みであり、基本的な質問項目は整理されている。本研究の調査対象である石内神楽団と同じ十二神祇神楽を継承している神楽団の関係者にも本研究の概要を説明し、インタビュー調査の協力依頼を行い、被験者として協力可能という回答を得ている。今後に予定するインタビューでは再生刺激法を伴うため、収録された映像資料の分析を行うための準備を進めている。 文献収集とその整理についても順調に進んでいる。伝統芸能における身体技法の伝承の過程を記述した論文、その中でも「なぞり」に関する議論が展開されている研究資料を収集してきた。 研究計画において予定していた「研究成果発表」については、平成28年度の調査結果をふまえ、平成29年7月に日本地域資源開発経営学会第6回全国大会において研究報告を行う予定である。現在は研究資料と参与観察から得られた映像資料を分析し、「なぞり」の具体的な相互作用を記述するための取り組みに着手している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年7月9日に開催予定の日本地域資源開発経営学会第6回全国大会(会場、サテライトキャンパスひろしま(広島県民文化センター内))において研究報告(研究報告題目「十二神祇神楽の伝承過程における「なぞり」に関する一考察」)を行い、質疑応答および学会開催期間における学会会員との意見交換を踏まえ研究報告内容の精査を行う。 平成29年度は神楽団の指導者に対する半構造化インタビュー調査を予定している。インタビューでは再生刺激法を伴う内容を行う。再生刺激法では通常のインタビュー調査では表れにくいと考える前意識的な「連続性」の感覚に可能な限り近い語りを、対象者から引き出すために、これまでの参与観察から得られた映像や画像を対象者に提示し、そのときの状況や感覚などを振り返って表現してもらう。今後は収集された映像資料の中から、インタビューの質問項目に対応した画像や映像資料の析出を行う。インタビュー実施後は収集された音声データについて随時逐語録の作成を開始していく。指導者の模範例に近い身体所作を学習者が具現化することに成功する場合もあれば、失敗する場合もある。可能な限り「なぞり」の成否に関連する映像を整理し、再生刺激法に活用できるようにする。 また、必要に応じた補足調査として、平成29年度も石内神楽団に対する参与観察を継続していく。参与観察を行う際には、平成28年度に実施した調査と同様に、神楽の練習場面の映像収録を部分的に行っていく。文献研究に関しても、フィールドワークの進行状況に応じて適宜仮説や概念定義の妥当性を確認、検証するために継続して実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
「物品費」の支出が少なかったことが原因である。本研究で着目する「なぞり」を主題として扱った文献および論文は決して多くはなく、著書の中でも部分的な言及が見られる程度であった。本研究を推し進めていくにあたって「なぞり」概念に近接していると思われる知見や議論の内容を幅広く確認する必要が生まれた。そこで本研究では、学会、ワークショップ、シンポジウムに参加し、「なぞり」と関連性の深い、コーチング、フロー理論、述語制などの用語についての情報収集を行った。当初の予定より、「旅費」を使用することが大幅に増えたこともあり、インタビュー調査および映像資料の保存、整理、編集などの環境整備に関する「物品費」の支出については平成29年度以降に行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は再生刺激法を伴う、半構造化インタビュー調査を予定している。参与観察で収録された十二神祇神楽の練習模様の映像資料の保存、整理、また収集された映像資料については「なぞり」に関係する部分の編集作業が必要となってくる。インタビュー調査および映像資料の保存、編集などに用いる機器および、それにともない必要となるパソコン環境の整備に関する物品の購入を予定している。
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