研究課題/領域番号 |
16K01639
|
研究機関 | 大阪商業大学 |
研究代表者 |
迫 俊道 大阪商業大学, 総合経営学部, 教授 (40423967)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | なぞり / 同調 |
研究実績の概要 |
平成29年6月から8月にかけて広島県広島市佐伯区五日市町石内で十二神祇神楽を継承している石内神楽団に対する参与観察を実施した。神楽の練習模様(指導者と学習者の間で展開する相互作用)の映像収集を行った。練習内容の概要、練習における指導者と学習者の言動の一部、それに対する調査実施者の見解を記録した。 平成29年7月には日本地域資源開発経営学会第6回全国大会(広島県民文化センター サテライトキャンパスひろしま)において「十二神祇神楽の伝承過程における「なぞり」に関する一考察」という演題で研究報告を行った。報告内容は、指導者と学習者の間で「なぞり」という行為がどのように展開されているのか映像資料を含めて、その具体的な内容を示した。 質疑応答から「なぞり」の概念の精査、また教育学の分野における「なぞり」の意義を検証することが今後の課題となった。 平成29年8月に神楽の指導的立場としての経験を有する3名の神楽関係者に対するインタビュー調査を実施した。「なぞり」に関する研究資料の収集を行い、本研究を推進するにあたって非常に重要な文献および論文を入手することができた。 平成30年3月にはインタビュー調査の結果の分析、また文献研究の精査を行った上で、日本スポーツ社会学会第27回大会(順天堂大学)において、「伝統芸能の身体所作の指導・学習過程 における「段階性」と「なぞり」に関する研究」という演題で研究報告を行った。過去に実施した芸道の「段階性」に関する研究を整理し、参与観察から得られた映像資料とインタビュー調査の結果を提示し、「なぞり」の相互(指導者と学習者)行為を社会学者の亀山佳明の同調に関する理論などを援用しながら考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に引き続いて平成29年度も同じ神楽団に対する参与観察を行った。映像資料を用いたインタビュー調査を実施するために、映像の整理を行った。平成28~29年度に収集した映像資料の中から、指導者と学習者の間で展開される「なぞり」行為に関連する部分を析出した。その映像をインタビュー対象者に提示しながら、半構造化インタビューを実施した。使用した映像の中にインタビュー対象者が含まれる場合は、その時の状況や感覚を振り返り表現してもらった。また、映像の中にインタビュー対象者が含まれない場合は、映像を提示しその時の練習状況について説明を行った上で、指導者と学習者の相互作用に関して質問を行った。インタビュー調査の実施にあたっては事前に協力を依頼し了承を得ており、また映像の整理についても順調に進んでいたこともあり、円滑に調査を行うことができた。インタビュー調査実施時において、対象者に本研究の目的などを改めて説明し、調査対象者の同意(インタビュー調査から得られた言説について、学会口頭発表や研究論文等へ用いることについて了承)を得た。インタビュー調査のトランスクリプト(逐語録)はインタビュー調査後に作成を開始し、音声内容を文字として書き起こした。 平成28年度と同様に文献収集と整理を行った。「なぞり」という言葉は表題には用いられていないが、身体論、特に相手と間合いを取りながら行う共同作業に関して重要な考察を含む文献として、奥井遼の『<わざ>を生きる身体-人形遣いと稽古の臨床教育学-』(2015年)、亀山佳明の「カラダを取り合うということ」(2002年)、これらが浮かび上がった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度に内容を確認できた身体教育学、身体論に関する文献の中から、特に「なぞり」に関連する部分を指導者と学習者の相互作用の観点から詳細に分析する。また、本研究の中核的議論と深く関わると思われる、奥井や亀山の研究について、これまでの研究論文の内容を把握するとともに、平成28年度からこれまでに集めた文献の総合整理を行う。 調査対象組織に対する参与観察を継続し、映像資料の収集を行う。平成29年度に実施したインタビュー調査については、音声データを活字化する作業(トランスクリプト)は終えているが、その内容をこれまでの研究成果と照らし合わせて分析する作業は十分に行われていない。トランスクリプトの内容を確認する過程において、インタビュー対象者の言説の細部を確認する必要が生じた場合は、設問を限定しインタビュー調査を追加する。 平成30年7月に日本地域資源開発経営学会第7回大会において研究報告を行うための準備を行い、研究成果を発表する。同学会においては昨年の平成29年度も「なぞり」に関する研究報告を行った。発表後に学会会員と時間をかけて意見を交換することで、本研究の課題と意義が明確となった。平成30年度も学会会員との意見交換を踏まえ研究報告内容の精査を行う。 映像資料、文献、音声資料の総合精査を行うとともに、研究論文としてまとめる。必要に応じて学会に参加し、また専門的知識を有する者と本研究の総括的な内容について意見交換を行い、論点の整理を行う。文献研究で精査された知見、参与観察およびインタビュー調査の結果を整理し、スポーツ社会学領域における「なぞり」の身体論研究の意義を考察する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー調査を実施するうえでインタビュー協力謝礼、インタビュー調査のトランスクリプト作成謝礼を支出することを予定していたが、これらの「人件費・謝金」に関する項目の支出額がなかったことが要因である。インタビュー協力謝礼が不要となり、またインタビュー調査のトランスクリプトを作成することについては、今回実施したインタビューが神楽の指導、学習場面の一部をインタビュー協力者に提示してその内容を問うものであり、神楽の専門的な知識も必要であるため、研究代表者がトランスクリプトの作成を行った。 学会において参与観察で収録された映像資料を提示しながら研究報告を行う予定である。これまでも映像資料を含む研究報告は行ってきたが、学会の会場施設の機器の関係で映像資料の提示の際に問題が生じるケースがあった。研究報告者自身がノートパソコン持ち込むことにより、このような事態を回避することができ、また意見交換の際にも映像資料を提示することで活発な意見交換が可能となることが予想されることから、ノートパソコンの購入を予定している。
|