本年度は、前年度までの調査をまとめる形で、日本教育心理学会と日本ホリスティック教育/ケア学会において発表を行った。前年度の海外中心の調査に対して、本年度は日本国内での、特に修養に関する研究を中心に行い、それらの統合を行った。 日本の明治期における修養主義(特に新渡戸稲造の修養)と修養健康法(特に岡田虎二郎の岡田式静坐法と中村春二の凝念法)と、現代におけるマインドフルネスとの接点を探り、明治期の修養概念から現代のマインドフルネスを見直すことにより、現在のマインドフルネスブームにおける問題点、課題を浮かび上がらせた。 修養概念と比較すると現代日本におけるマインドフルネスは、身体性が欠如しており、源流を仏教に持ちながらもそれをアメリカ経由で移入することにより、本来は身心一如であり、具体的な身体性を伴っていたはずのマインドフルネスが、心理的な問題として扱われるようになっている。一方でそれを受容する日本文化においても身心一如の理念型である「肚」概念・思想の衰退が示すように、身体と心とは別物として扱われている現状がある。それに対して、新渡戸のそれに特徴的なように、修養概念は身心を分離せずに考える思想である。また仏教国であるタイ国等におけるマインドフルネスと比較からは、現在の日本におけるマインドフルネスにおける文脈性の欠如が明らかとなった。現在のマインドフルネスは技法として捉えられているが、タイ国等仏教国においてマインドフルネスは托鉢の伝統等地域社会や文化伝統との関係性において意味を持つものである。 現在の日本におけるマインドフルネスにおける身体性と文脈性の欠如という課題に対して、修養概念、特に身体性を伴った修養概念は、日本文化とマインドフルネスの接点となるものであり、現在のマインドフルネスブームを一過性のものとせず、日本文化に根づかせる手段ともなりうるものであることが明らかとなった。
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