いじめの問題や、それに伴う自殺の問題は深刻な状況であり、その対応は教育現場における最重要の喫緊の課題である。その際、子どもに直接働きかける、メディアを通した著名人の言葉や書籍なども、一定の抑止効果があると考えられるが、限定的であり一過性の影響に終わる可能性がある。それよりも、子どもたちにとってはSNSなどのパーソナルなメディアが、より影響力を持っているという指摘もある。それらに対して、日常的に一貫して関わる教師が、正しい知識をもち的確な意識と態度で接することで、より有効な自殺予防ができると考えるのが妥当であろう。そこで重要なことは、まさに教師の知識と意識と態度・行動であろう。 そこで本研究では、これまでのいのちの教育と自尊感情に関する研究成果を踏まえて、現場の教員らと連携しながら筆者ら自身が関わることで中学生、高校生を対象に「いのちの授業」を行い分析、検討を行った。対象としては、複数の中学校、高等学校の生徒927名(A中学校157名、A高等学校117名、B高等学校614名、中高生A合唱団39名)であった。その結果、対象集団の事前事後の比較に留まらず、対照群を設定した中学生を対象にした介入研究(A中学校)においても、生徒らの自尊感情得点の上昇があり、一定の効果が見られた。その際、依拠したのは、これまでのいのちの教育の実践から得られた理論と方法、そしてJames(1890)以来多くの知見が積み重ねられ、近藤(2010)によって構築された自尊感情の理論と方法である。 今後は、これらの実践の結果から得られた知見をより一般化し、多くの学校で現場の教師が実践することを重ねていく必要がある。そうすることで、いのちの教育と自尊感情に関する教師の知識、意識そして態度を醸成し、具体的な行動の取れる十分な力を持つことを目指した、健康教育プログラムの実践的研究を計画・実施していくつもりである。
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