本研究の目的は、日本における体操の思想と動きに内在する独自の意義について、歴史的視点から明らかにすることである。 研究最終年度にあたる本年度は、前年度までに実施した、体操の思想的側面の考察と映像資料の「動き」の分析に基づいて、「体操理論」(体操についての統一的な説明体系)を明らかにすることを試みた。特に、国鉄体操を対象として、既存の体操(機械的な運動の反復で身体を鍛える)との差異を抽出するために、知的、道徳的、感情的、美的側面がどの程度「体操理論」に反映されているかの解明を試みた。具体的には、1940年代の前半と後半で「体操理論」にどのような変化や改編がなされているかを考察した。 補完調査として、デンマーク体操クラブ「アンセル」の会長および関係者から聞き取り調査を行なった。本調査を実施したことで考察の幅が広がり、また、国鉄体操の思想的基盤となっているニルス・ブック基本体操に関する映像資料(『Nils Bukh A Visual Documentation of Gymnastics and Politics 1912-52』)を収集することができた。 最後に、これまでの学術評価の結果に基づいて研究を総括した。ここでは、日本における体操の思想と動きに内在する独自の意義について総合的に考察した。また、1920年代後半以前と1950年代後半以後との断続点をどのように描くことが可能なのかについて、一定の知見を得た。
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