研究課題
スキーワックスおよびストラクチャの滑走性能評価のために,小型・軽量・高精度なキネマティックGNSS装置を構築した.寸法は18.5mm×38.5mm×78.5mm,容積は63cc,重さは64gである.測位方式は後処理キネマティックで,測位精度は静止時約1cm以下,動作時約3cm以下であり,ディファレンシャルと比較して約100倍高精度である.GPS,GLONASS,Beidou,QZSSに対応する.最大サンプリング周波数は10Hzである.アンテナは内部アクティブパッチアンテナで,寸法は35mm×35mm×6.9mm,2段28dBのLNAとSAWフィルタを持つ.天頂方向の衛星信号受信感度は約45dBHzである.CPUはCortex-M3コア,32bit,32MHz,10mWで動作する.メモリはmicroSDHC 16GBで,約1ヶ月分のRawデータを格納できる.バッテリーは容量400mAhのリチウムポリマー二次電池であり,外気温0℃,10Hzサンプリング周波数で約6時間連続動作する.スキー滑走中の身体動作や振動等を計測するために,3軸の加速度,ジャイロ,地磁気センサを搭載する.また,空気抵抗や雪温等の環境情報を計測するために,24ビットのΣΔ型ADコンバータを搭載する.開発したGNSS装置を用いてスキー実験を行った.ホットワクシングを施したクロスカントリースキー板を履いて緩斜面を直滑降した時のスキーヤーの三次元位置を,スキーヤーの頭部に装着した2個のGPS装置(1つは開発したGNSSで,もう1つは測量用ディファレンシャルGPS)により測位した.スキーヤーが受ける抵抗を運動エネルギーと位置エネルギーの減少分から計算したところ,測定結果のばらつきは開発したGNSS装置の方がディファレンシャルGPSよりも1桁小さく,高精度に計測できることがわかった.
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題の研究計画は(1)ワックスおよびストラクチャの滑走性能評価のための小型・軽量・高精度なキネマティックGNSS装置の構築及び(2)最適なワックスおよびストラクチャを選定するシステムの構築の2項目からなる.当初の計画では,平成29年度は,(1)に関して,GNSSモジュールとGNSSアンテナの最適組合せの決定,高精度GNSS装置の作成及び高精度GNSS装置の評価試験の3項目を実施する予定であった.また,平成30年度から平成31年度までは,(2)に関して,ワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化及び最適選定アルゴリズムの開発と評価の2項目を実施する計画である.本研究課題の進捗状況は,(1)に関しては,【研究実績の概要】で述べた通り,平成29年度内に予定通り研究計画を達成し,目標とするGNSSモジュールとGNSSアンテナの最適な組合せを決定し,高精度GNSS装置の設計開発及びその高精度GNSS装置の評価試験の3項目をすべて実施した.特に高精度GNSS装置の開発では,電子回路基板の電源グランド雑音や輻射雑音がアンテナと電磁波干渉を起さないように注意深く設計を行い,目標とする受信感度(CNR)45dBHzを達成した.さらに,(2)のワックスやストラクチャの滑走性能データの収集の一部まで平成29年度内に実施できた.北海道のスキー場にてGNSSを用いた摩擦係数計測実験を行った結果,測量用ディファレンシャルGPSに比べて約1桁ばらつきが少なく高精度に計測できることがわかった.(1)および(2)の成果の一部はすでに国際会議(7th International Conference on Science and Skiing等)や国内研究会(日本スキー学会や日本機械学会スポーツ工学・ヒューマンダイナミクスや日本トライボロジー学会等)で研究発表を行っている.
本研究課題の研究計画は(1)ワックスおよびストラクチャの滑走性能評価のための小型・軽量・高精度なキネマティックGNSS装置の構築及び(2)最適なワックスおよびストラクチャを選定するシステムの構築の2項目からなる.【現在までの進捗状況】で述べた通り,(1)はすでに予定通り達成した.今後は(2)の研究を推進する.(2)に関して,ワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化及び最適選定アルゴリズムの開発と評価の2項目を実施する計画である.最適選定システムは2つのプロセスから構成される.1つは統計と機械学習で,入力されたワックスとストラクチャの滑走性能データと雪面状態の相関関係を分析してモデルを構築する.もう1つは最適化で,与えられた雪面状態などの制約条件を満たしながら目的関数を最小化する.この目的関数は構築されたモデルから与えられ,その出力が最適なワックスとストラクチャの組み合わせとなる.どちらのプロセスも,MATLABコンパイラのライブラリ(Toolbox)を活用することで迅速なアルゴリズム開発と評価を目指す方策である.統計と機械学習プロセスにおいて,入力する滑走性能データをいかに高精度かつ低雑音で大量に収集するかが鍵となる.現状のワックステストの問題は,何回も繰返しテストするうちに人が疲れてしまうことと,時間が経過するにつれて雪面状態が変化してしまうことである.必然的に滑走性能データがばらつくため,統計と機械学習プロセスに必要な精度と量のデータを得ることは難しい.そこで本研究では,Nordic Torpedoという超高分子量ポリエチレンでできたサイズ43mm×43mm×300mm,片方の先端が四角錐状で空気抵抗が小さいスキー滑走体を数10個に用いて,短時間に大量の滑走性能データを取得する方策である.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
SAE Technical Paper
巻: 1 ページ: 533
10.4271/2016-01-0553
Journal of Physical Chemistry C
巻: 120(21) ページ: 11465-11480
10.1021/acs.jpcc.2b00944
http://www.fff.niche.tohoku.ac.jp/