研究課題/領域番号 |
16K01648
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮本 直人 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (60400462)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スポーツ科学 / トレーニング科学 / キネマティックGNSS / スキー / 摩擦係数 / ワックス / ストラクチャ |
研究実績の概要 |
スキー競技において,ワックスおよびストラクチャは,勝敗を決める最重要要素である.ワックスやストラクチャの性能は雪面状態に大きく左右されるため,競技コースの雪面状態に最も適合するワックスやストラクチャを選ぶのが,最高の滑りを実現するために極めて重要である. 昨年度,競技コース上でワックスおよびストラクチャを性能評価するためのGPS装置を完成させた.このGPS装置は測位精度3cm以下(差動GPSの1/100以下)であり,後処理キネマティック測位方式のGPS装置としては世界最小(63cc)・最軽量(64g)を実現した.尚,このGPS装置はアンテナ,バッテリー,ロガー等を内蔵しており,他の付属品を一切必要としないという特徴がある. 当該年度は,開発したGPS装置を用いて実際の競技コース上でスキー実験を行い,摩擦係数や雪質を計測・データベース化し,最適なワックスおよびストラクチャを選定するための基礎を構築することを目的とした. 摩擦係数を定量的に計測・データベース化するために,様々なワックスやストラクチャを有するクロスカントリースキー板を複数準備し,一台ずつ履き替えながら雪斜面を直滑降した時の三次元軌跡を,滑走者の後頭部に装着したGPS装置により計測した.計測した三次元軌跡から,エネルギー保存の法則により摩擦係数を推定した.力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は,滑走中,徐々に減少する.その減少したエネルギーは雪斜面の摩擦抵抗および空気抵抗によるエネルギー損失であり,そこから摩擦係数を計算する.この手法により,摩擦係数が0.001の確度で計測できることを確認した. 最適なワックスおよびストラクチャを選定するために,雪質(種類,雪温,含水率,比重,硬度,結晶構造)や気象データ(気温,湿度,風速,日照)を計測し,摩擦係数と共にデータベース化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画は(1)ワックスおよびストラクチャの滑走性能評価のための小型・軽量・高精度なキネマティックGNSS装置の構築及び(2)最適なワックスおよびストラクチャを選定するシステムの構築の2項目からなる. 当初の計画では,平成28年度は,(1)に関して,GPSモジュールとGPSアンテナの最適組合せの決定,高精度GPS装置の作成及び高精度GPS装置の評価試験の3項目を実施する予定であった.また,平成29年度から平成30年度までは,(2)に関して,ワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化及び最適選定アルゴリズムの開発と評価の2項目を実施する計画である. 本研究課題の進捗状況は,(1)に関しては,【研究実績の概要】で述べた通り,平成28年度内に予定通り研究計画を達成し,目標とするGPSモジュールとGPSアンテナの最適な組合せを決定し,高精度GPS装置の設計開発及びその高精度GPS装置の評価試験の3項目をすべて実施した.(2)に関して,平成29年度はワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化を重点的に行い,さらに最適選定アルゴリズムの開発の一部まで当該年度内に実施できた.特に,ワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化では,北海道のスキー場にてGPSを用いた摩擦係数計測実験を行った結果,測量用ディファレンシャルGPSに比べて約1桁ばらつきが少ない0.001の確度で摩擦係数を計測した. (1)および(2)の成果の一部はすでに国際会議(22th Annual Congress of the European College of Sport Science等)や国内研究会(測位航法学会や日本機械学会スポーツ工学・ヒューマンダイナミクスや冬季スポーツ科学フォーラム等)で研究発表を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究計画は(1)ワックスおよびストラクチャの滑走性能評価のための小型・軽量・高精度なキネマティックGPS装置の構築及び(2)最適なワックスおよびストラクチャを選定するシステムの構築の2項目からなる.【現在までの進捗状況】で述べた通り,(1)はすでに予定通り達成し,(2)も概ね順調に進展している.平成30年度は引き続き(2)の研究を推進する. (2)に関して,ワックスやストラクチャの滑走性能データの収集とそのデータベース化及び最適選定アルゴリズムの開発と評価の2項目を実施する計画である. 最適選定システムは2つのプロセスから構成される.1つは統計と機械学習で,入力されたワックスとストラクチャの滑走性能データと雪面状態の相関関係を分析してモデルを構築する.もう1つは最適化で,与えられた雪面状態などの制約条件を満たしながら目的関数を最小化する.この目的関数は構築されたモデルから与えられ,その出力が最適なワックスとストラクチャの組み合わせとなる.どちらのプロセスも,MATLABコンパイラのライブラリ(Toolbox)を活用することで迅速なアルゴリズム開発と評価を目指す方策である. 統計と機械学習プロセスにおいて,入力する滑走性能データをいかに高精度かつ低雑音で大量に収集するかが鍵となる.また,ワックスやストラクチャの滑走性能は雪面状態に大きく依存するため,競技コースの雪質(種類,雪温,含水率,比重,硬度,結晶構造)や気象データ(気温,湿度,風速,日照)を滑走性能データと関連付けてデータベース化する方策である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に人件費として300,000円使用する予定であったが、これを使用しなかったため次年度使用額が生じた。この人件費は、ワックスおよびストラクチャの最適選定アルゴリズムを用いたデータ解析のために、技術補佐員を雇う予定であった。しかしながら、最適選定アルゴリズムの開発が一部遅れており、十分データ解析が開始できるまでに至らなかった。そのため、技術補佐員を雇うことができなかった。 次年度には、当該年度に計上していた人件費300,000円と次年度に計上していた人件費300,000円を合わせた合計600,000円を、当初の計画通りワックスおよびストラクチャの最適選定アルゴリズムを用いたデータ解析のために、技術補佐員を雇用することで使用する計画である。すでに雇用する人員を確保し、事務手続きを進めている。 また、この技術補佐員にデータ解析を予定通り遂行してもらうために、技術補佐員の着任までにワックスおよびストラクチャの最適選定アルゴリズムを開発し、技術補佐員がすぐに作業できるように準備する計画である。
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