研究課題/領域番号 |
16K01654
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岡田 昌史 東京工業大学, 工学院, 教授 (60323523)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感度解析 / 投擲運動 / 平衡多様体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,投擲における初期姿勢の誤差が着地点に及ぼす影響を感度としても求め,これを最小化する運動を設計することにある.平成29年度は以下の項目に取り組んだ. (1) 感度最小化のためのフィードバックゲインの最適化:これまでの手法では投擲の軌道を変化させることで感度の最小化を行っていたのに対し,フィードバックゲインを変化させることで感度を最小化することをおこなった.ロボットの関節がPD制御によって制御されていると仮定し,感度のフィードバックゲインに関する勾配を求め,感度の最小化を行った.この結果,正のフィードバックゲインが得られ,不安定化させることで感度が小さくなる結果が得られた.この結果に基づいて投擲実験を行い,得られたフィードバックゲインを用いることで初期値の誤差に関する着地点のばらつきが小さくなることを示した.この結果は,投擲における力の入れ具合を変化させることで命中率が変化することを示している. (2) 力学系の平衡多様体への安定化:ロボットを平衡点の部分集合(平衡多様体)に安定化する手法を提案し,実験によって検証した.これはリンク系の動きをある軌道に沿った動きへ拘束することに相当し,人に運動を提示する装置への応用が考えられる.2重倒立振子を対象とし平衡多様体を求めてその部分集合を定義し,これに収束する場の定義とその関数近似によってコントローラを設計した.実験装置を試作し,提案手法によって平衡多様体への安定化が可能であることを示すと同時に,外力によって設定した軌道(平衡多様体上の点)へ移動が可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,平成28年度の結果を軌道の最適からフィードバックゲインの最適化へと発展させた.これは人の力の入れ具合に相当し,力の入れ具合の関係と命中率の関係を明らかにし,その関係に基づいた設計を行うものであり,平成29年度当初の目的と合致する.実際,平成28年度ではハイゲインフィードバックを使用していたのに対し,最適化により比較的小さなフィードバックゲインが得られ,これを用いた方が命中率が向上することが示された.さらに,平衡多様体への安定化手法は動きを拘束したパワースーツのような装置を想定しており,運動提示手法の新たな道具を見出す研究である.平衡点上では速度が零になるうえ,移動できる方向が隣の平衡点に限定されるため,人は力を入れることで自動的に目標の軌道を実現する.一般に,平衡多様体への安定化は位置・速度とは異なる物理パラメータ(例えば角運動量など)を状態変数として選ぶことで可能であることが知られているが,本手法は一般化してとらえ,設計者が定義した仮想的なポテンシャルに基づいた安定化手法であり,これまで研究を進めてきたアトラクタの設計法を応用した内容である.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の結果から,感度解析においてはフィードフォワード制御の役割が大きいことが分かった.すなわち,フィードバックは運動が目標軌道からそれたときに働く作用であるのに対し,フィードフォワードは運動を続けるための作用であるため,ロボットが軌道上を動く場合にはフィードフォワードのみが作用する.特に,最適化によりハイゲインなフィードバックが実現できない場合にはフィードフォワード項が正しくなければ運動は目標の軌道から大きく離れ,命中率は著しく低下する.そのため,投擲対象の物理パラメータを正確に求めた上で逆動力学解析によって運動を実現するためのトルク軌道を求める必要がある.平成30年度は正確なモデルの同定法,さらに,得られたパラメータの誤差分散を求め,その着地点の感度を最小化する制御系の設計法に取り組む.人は訓練によってフィードフォワード項を獲得すると予想され,パラメータ同定は人の訓練に相当すると予想される. 一方,平衡多様体への安定化手法は人の行動を誘導する手法として大きな可能性をもっている.平衡多様体によって進む方向が決められているので,人は力を入れるだけで自動的に軌道を生成し,その体勢感覚から学習効果が早まることが予想される.ただし,人と接触する機器であるため,安全性をよく検討する必要がある.平成30年度は,平衡多様体の設計手法に基づいて人の行動を誘導する手法と道具の設計に取り組む.
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