Tokyo2020大会組織委員会が公表している「持続可能性コンセプト」をみると、今日の持続可能性の概念は、環境負荷の最小化や自然との共生、環境意識の啓発など、これまでの環境の側面だけではなく、人権や労働環境への配慮、サプライチェーンの管理などまで意義が拡大していることが分かる。今後、オリンピックに注がれる世界の目はさらに厳しさを増していくだろう。将来にわたりオリンピックの大会自体を持続可能なものにしていくためには、世界に向けて健全な環境の必要性に対する認識を高め、徹底するとともに、環境問題を含めた広範な社会問題に対する配慮や取り組みがより一層求められていくことに違いない。 これまでユースオリンピックや直近のオリンピック大会での一連の環境対策を概観したが、長期的な展望を欠いたインフラ整備や景気浮揚策のみの短期志向の戦略展開といった一過性のものではなく、環境保全を考慮した節度ある開発によって「どのような長期的な遺産を遺せるのか」という視点を明確にしておく必要がある。もしも、持続可能性に配慮しない行為があれば大会の評価に大きな影響を及ぼすだけではなく、オリンピック・パラリンピックの価値を棄損することにもつながりかねない。 このように、スポーツを通じた環境問題へのアプローチは、地球環境の悪化がスポーツの存在に関わる重要な問題であるにもかかわらず、これまで日本のスポーツや体育の分野において「スポーツと環境」に関する研究はほとんどなされてこなかった。しかし、地球環境を守ることの大切さを発信する試みは、スポーツと環境の関わり方を改めて考える機会を得ることができ、スポーツや体育の研究分野においても重要な意義を持つものであると捉えることができる。
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