本年度は、主に前年度までに得られた資料・データを分析した。Jリーグの中でも地域活性化に貢献していると評価されているクラブの観戦者のソーシャル・キャピタルと、Jリーグ入りを目指しているクラブの観戦者のそれとに違いがあるのかを明らかにする。スポーツ庁(2017)においてスポーツによる地域・経済の活性化の事例として取りあげられた松本山雅FCのホームゲーム観戦者と、2015年シーズンからJFLに入りJリーグ加盟を目指している奈良クラブのホームゲーム観戦者のソーシャル・キャピタルを比較した。ソーシャル・キャピタルについての調査項目は、パットナム(2001)によると「信頼」「ネットワーク」「互酬性の規範」が主要要素となるが、これに準じた内閣府(2003)のものを参考にして設定した。その結果、後者において有意に「趣味・娯楽活動」の値が高く、前者において有意に「近隣でのつきあい」の値が高くなっていた。今回の調査において「趣味・娯楽活動」の項目では、スポーツ以外の趣味・娯楽活動としたため、サッカー観戦は含まれない。両者の観戦回数を比較したところ、松本山雅FCの観戦者の方がリピーターの割合が多く、観戦へのコミットメントが強いことが分かった。そのため、松本山雅FCの観戦者は、それ以外の「趣味・娯楽活動」に費やすことができにくくなっており、それに対して、奈良クラブの観戦者は、奈良クラブの試合観戦へのコミットメントがそれほど強くないので、それ以外の「趣味・娯楽活動」を行う余裕があったと推察できるかもしれない。 また、補足的な調査として、奈良クラブが実施しているホームタウン活動についてクラブの担当者から情報を提供してもらった。ホームゲーム会場での人権啓発活動、サッカー教室の開催、各界で活躍している人を講師として招聘したセミナーや「教育」をキーワードにした夏期講習を実施していることが分かった。
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