研究課題
筋衛星(サテライト)細胞は骨格筋に存在する幹細胞であり、骨格筋の成長、再生、肥大に重要な役割を担っている。筋サテライト細胞の数や活性は運動や食事、加齢、糖尿病などの影響を受けることが報告されている。本研究の目的は、サテライト細胞による骨格筋機能の維持・増進メカニズムを解明することである。研究初年度には、まず加齢および糖尿病が筋サテライト細胞に及ぼす影響を検討した。老化促進マウスであるSAMP6マウス(40週齢)を実験対象とした。しかしながら、単一筋線維採取段階で筋線維にダメージが強く起こり、筋サテライト細胞の単離はできなかった。次に、糖尿病の影響について解析を行った。対象はストレプトゾトシン(STZ)投与により低インスリン高血糖状態を呈したC57BL/6マウスである。健常マウスおよびSTZ投与1週間後のマウスの長指伸筋から単一筋線維を採取し、筋サテライト細胞を単離、培養した。分化誘導4日後の筋管細胞にインスリン刺激を行い、細胞内インスリン情報伝達因子を解析した。インスリン刺激によるInsulin Receptor Substrat-1およびAktのリン酸化の上昇は、STZ投与群で低値を示した。以上の結果より、短期間の低インスリン高血糖状態に暴露された筋サテライト細胞は、in vitroで培養してもその影響が残存する可能性が示唆された。続いて、健常筋サテライト細胞から作成した筋管細胞に対する電気刺激がタンパク質合成シグナルに及ぼす影響を検討した。その結果、低周波刺激(1 Hz, 1時間)では影響が認められなかったが、高周波刺激(50 Hz, 10分間)はタンパク質合成促進作用の指標となるp70 S6 kinaseのリン酸化を上昇させた。このことは、筋サテライト細胞由来の筋管細胞は個体内の骨格筋細胞と同様にメカニカルストレスに反応することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
筋サテライト細胞の単離、培養、分化はおおむね順調に進展している。また、短期間の糖尿病状態が筋サテライト細胞に影響を及ぼすことを明らかした。マウスから骨格筋を採取し、in vitroで約2週間の培養後に解析を行ったが、個体内でサテライト細胞が受けた影響は残存することを示した。さらに、個体における筋収縮を模した電気刺激によるメカニカルストレスがサテライト細胞に及ぼす影響についても明らかにした。持久的運動を模した低周波刺激ではタンパク質合成シグナルは増強されないが、強縮を誘発する高周波刺激ではそのシグナルが上昇した。これらの結果は、本研究の培養骨格筋細胞モデルが個体内の骨格筋と類似の反応を呈することを示唆しており、今後の研究における重要な基礎的データとなる。一方、加齢が筋サテライト細胞に及ぼす影響については検討できなかった。その理由として、加齢が進むと筋線維(筋細胞)が脆弱化し、単一筋線維採取時のコラゲナーゼ処理によるダメージが大きいことがあげられる。筋線維はダメージを受けると強く収縮するためサテライト細胞以外の細胞(線維芽細胞など)の混入が発生し、解析することができなかった。
本年度は研究計画どおりに、遺伝的背景が異なるマウスから筋サテライト細胞を採取し、種々の刺激に対する反応を解析する。まずは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝の律速酵素である分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体(BCKDH)キナーゼを骨格筋特異的に欠損したマウスから筋サテライト細胞を単離し、筋管細胞を作成する。このマウスは、骨格筋におけるBCAA代謝が亢進しているため、筋サテライト細胞においても同様な影響があるか否かを解析する。さらに、野性型マウスと欠損マウスからそれぞれ採取した筋サテライト細胞を融合させることによって、キメラ筋管細胞を作成し、その機能を解析する。当初の計画では融合実験における各サテライト細胞の由来動物を確認する方法として、Cre 依存的 にβ-galactosidase を発現するトランスシジェニックマウスから採取した筋サテライト細胞を使用する予定であったが、一部計画を変更する。雌雄別のマウスから採取したサテライト細胞を使用し、性染色体を標識することによって、サテライト細胞の由来動物を確定する方法を用いる。
単一筋線維の採取を効率的に行うため追加の培養倒立顕微鏡を購入予定であったが、発注から納入までに年度が変わることから、次年度での購入に変更した。
上記培養倒立顕微鏡の購入に使用する(約40万円)。
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