運動時にはエネルギーや水分補給を目的として,糖質を含むスポーツ飲料がよく摂取されているが,このことは,高強度運動時には吐き気や腹痛といった胃腸障害をしばしば誘発する。この胃腸障害の発症要因は,摂取した飲食物の胃腸管内貯留のため,運動中の胃腸障害を予防し,運動パフォーマンスを維持・向上するためには,糖質飲料の胃腸管内での消化吸収促進が鍵である。 先行研究によると,たった3日間の高グルコース補給が,グルコース飲料の胃から十二指腸への排出(胃内容排出:以下GE)を促進した。これらの現象は,安静時のみでしか確かめられておらず,運動時においても同様の現象が生じるのか否かについては,検討されていない。短期間の高グルコース補給が運動時にも同様にグルコース飲料の消化吸収を促進すれば,胃腸障害の軽減のみならず,エネルギーや水分の素早い補給にもつながり,運動パフォーマンスの維持・向上に非常に有用である。 令和3年度は,4日間の高グルコース補給(7 g/体重kg/日)が運動時に摂取するグルコース飲料の消化吸収を促進し,胃腸障害を予防するか否かについて検討した。GEは,コントロール条件(C条件)と比べて,高グルコース条件(G条件)で有意に促進した。また,胃腸障害は,C条件と比べて,G条件で軽減された。血糖値は,グルコース飲料摂取45分~90分後に,C条件よりG条件で有意に低下した。血漿インスリンは,プロトコール全体を通して,C条件と比べ,G条件で有意に高かった。短期間の高グルコース補給は,安静時と同様に運動時でもグルコース飲料のGEおよび体内への糖の取り込みを促進し,それに伴い胃腸障害を軽減した。このことは,短期間の高グルコース補給は,運動時の胃腸障害の軽減・予防およびエネルギーや水分の素早い吸収につながり,スポーツ競技力向上のための新たな栄養学的方法になる可能性がある。
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