研究実績の概要 |
本研究ではうつ病治療における運動療法の有用性を確認すると共に,運動によりもたらされる抗うつ効果がイノシンを介したアデノシン受容体の活性化と関係するか否かについて検討する.その為に平成28年度は不活動状態での飼育が実験動物にうつ様行動を引き起こすか否かについて検討した. 実験動物には8 週令のC57BL/6J 雄マウスを用い,これらのマウスを(1)通常飼育群(15 匹),(2)不活動飼育群(15 匹)の2 群に分けた.不活動飼育群は通常のマウスケージをアルミ板で6 個のスペースに仕切った自作の6 分割飼育ケージで飼育した.通常ケージで飼育した場合,マウスはケージ内を頻繁に動き回ったりケージの蓋の金網によじ登ったりしており,日常的にかなりの身体活動を行っている.しかしこの6 分割ケージで飼育することによりマウスの活動範囲は狭められ日常生活における身体活動量は著しく低下する.各ケージで10 週間マウスを飼育後,うつ様状態の確認のためForced Swim Test (FST)とSucrose Preference Test (SPT)を行った.FST ではマウスを6 分間水槽に入れてその間に全く泳がずに水面に浮いている無動時間を測定する試験で,この無動時間が長いほどうつ様状態が高いとされる.SFT ではマウスに水と1%ショ糖水を与えてショ糖水を摂取する割合を調べ,ショ糖水摂取率が低下する程うつ状態が高いとされる.実験の結果, 6 分割飼育ケージで飼育は通常ケージのマウスに比べFSTでの無動時間が増加し, SFTでのショ糖選択性が低下した.これらの結果から, 6分割ケージでの飼育はマウスにうつ様行動をもたらすことが確認できたので, 次年時以降はこのケージでマウスを飼育てうつ様行動の発症に対する運動の予防効果と脳内イノシンの変化との関係について検討する.
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