これまでの研究より,不活動飼育によりマウスにうつ様症状が引き起こされること,そして不活動飼育と並行して規則的な運動を行わせることによりマウスのうつ様症状が改善することを明らかにした.これらの結果を基に,不活動飼育と並行して規則的な運動を行わせ,最終的に行動試験でうつ様症状に改善の有無を調べる際にアデノシン受容体阻害剤(8-cyclopentyl theophylline: CPT)を投与してうつ様症状の改善の有無,および海馬での脳由来神経栄養因子(BDNF)のmRNA発現を調べることにより、運動によるうつ様行動の改善にアデノシン受容体を介したイノシンの作用が関与するか否かについて検討した. 10週令のC57BL/6J 雄マウスを用い,これらのマウスを(1) 通常ゲージ飼育群,(2) 不活動飼育群,(3) 不活動飼育+運動,(4) 不活動飼育+強度運動+アデノシン受容体阻害剤の4群に分けた.不活動飼育群は自作の6分割飼育ケージで飼育し,運動はトレッドミル速度10~15 m/分のトレッドミル走を1日に30分,週3回行わせて10週間飼育した後にうつ様状態の測定のためにショ糖選択性試験と,作業記憶能力の測定のためにY迷路試験を行った.CPTは行動試験の30分前に腹腔内投与した.行動試験終了後にマウスを屠殺して海馬を採取して凍結保存した. 不活動飼育により発症したうつ様行動と作業記憶の低下は定期的な運動により改善し,この改善はアデノシン受容体阻害剤の投与により影響を受けなかった.更に,不活動飼育により低下した海馬のBDNF mRNA発現は定期的な運動により改善したが,この改善はCPT投与により変化しなかった.この結果から,運動によるうつ様行動の改善にはアデノシン受容体を介したイノシンの関与は見受けられなかった.
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