研究課題/領域番号 |
16K01742
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研究機関 | 新潟医療福祉大学 |
研究代表者 |
越中 敬一 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 講師 (30468037)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鉄代謝 / 骨格筋 / インスリン抵抗性 / 筋収縮 |
研究実績の概要 |
一般的に鉄欠乏による貧血状態下において確認される身体運動能力の低下は、活動筋である骨格筋への酸素の供給低下が主因であると考えられている。一方本研究では、その主因を骨格筋自体に求め、酸素の供給に非依存的な解糖系における代謝障害を根本要因とする仮説を検討する。また、筋疲労との関わりにおいて骨格筋における鉄代謝と糖代謝とのクロストークを明らかにし、代謝障害を引き起こす分子機序の解明を試みる。
ラットに鉄欠乏食を摂取させると、2週間でヘモグロビンや赤血球数の低下が確認でき、その状況は4週間の摂取時においても維持された。この間、ラットの行動量を測定してみると、鉄欠乏による顕著な変化は確認できなかった。一方、自発運動をしながら同鉄欠乏食を摂取させてみたところ、2週間目から4週間目にかけて顕著な行動量の低下を確認できた。このことは、鉄欠乏による貧血状態下において、身体運動に特異的な適応が身体に生じている可能性を示唆している。そこで、骨格筋における代謝適応を明らかにするため、鉄欠乏食を2週間摂取させ、単離骨格筋の糖取り込みを測定してみた。この条件下では骨格筋への血流等の影響を排除することができる。その結果、インスリン刺激による糖取り込みは変化していなかった。一方、身体運動による骨格筋の糖取り込みは有意に低下をしていた。この結果は、鉄欠乏食による貧血状態下では、骨格筋の糖取り込み機構に身体運動に特異的な障害が生じていることを示している。
以上の結果は、研究仮説を支持するものであり、今後、同実験モデルを用い、さらなる検討を加える予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年度における研究目的の1つは、鉄欠乏による貧血状態の進行にともなう代謝変化を包括的に明らかにすることであった。現在までに、鉄欠乏食の摂取期間と貧血の程度、行動量、糖取り込みとの関係を明らかにした。また、摂食量や内臓脂肪量の変化から、今後検討を重ねるべき実験モデルを確立した。これらはおおむね実験計画書に沿って行われている。
一方、28年度はもう一つの研究目的であった、代謝変化と筋疲労との関係を明らかにすることは十分に行なえていない。この点、研究計画から遅れている点である。しかしながら、身体運動に対する骨格筋の糖取り込みが、血流等の変化とは関係なく低下していることを28年度に確認できた。また、この低下は内臓脂肪量の変化とは無関係に生じることがわかった。身体運動によって骨格筋に取り込まれる糖質は、骨格筋内の筋グリコーゲンの利用量に影響を与える。よって、貧血状態下における糖取り込みの低下は、筋グリコーゲンの利用を促進し、筋グリコーゲンの枯渇を導く可能性がある。この点、身体運動、および単離骨格筋での筋収縮モデルを並列しながら、その作用機序の分子メカニズムも合わせて今後検討をさらに進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
貧血状態下において、身体運動による糖取り込みを低下させる分子機序を明らかにする。筋収縮による糖取り込みは、AMP-activated protein kinase(AMPK)とcalcium/calmodulin-dependent-protein kinase (CAMK)IIとよばれる酵素の活性化によって生じる。筋収縮刺激によるこれら酵素の活性化を測定し、さらにグリコーゲンおよび乳酸の代謝調節における分子群への影響も合わせて検討する。単離骨格筋と鉄との直接的な共培養実験も加え、解糖系における代謝障害を惹起する分子機序を包括的に明らかにする。
運動中に解糖系を調節する分子であるAMPKやCAMKIIは、運動の繰り返し(身体トレーニング)によって生じる骨格筋の適応に重要な役割を担っている。よって、筋収縮刺激によるこれら酵素の活性化が減弱するのであれば、運動を慢性的に行う身体トレーニングに対して、低いトレーナビリティーを示す可能性があり、筋疲労の増強に関与する可能性がある。そこで、ラットに身体トレーニングを負荷し、骨格筋適応(糖輸送担体量,ミトコンドリア量等)の程度を比較する。
本研究は、鉄欠乏と身体運動能力の低下との関係を明らかにする試みである。しかしながら、鉄代謝と糖代謝とのクロストークによる代謝障害は、インスリン抵抗性に関与する生活習慣病の発症やその予防等においても注目されている研究分野でもある。筋疲労との関わりにおいて当初計画どおりに進まない場合には、「鉄欠乏状況下の骨格筋における代謝障害」に研究対象は据え置きながら、焦点を当初計画にあった「筋収縮刺激と解糖系」から「インスリン刺激と解糖系」に一部修正し、鉄代謝との関わりにおいて一定の知見が得られるように努める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に遅延が生じているため、その分、28年度分に使用予定であった研究費が29年度へ繰越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に十分行えなかった代謝変化と筋疲労との関係に関する研究を行うために使用する。その他の研究は、研究計画書の内容に沿って行う予定である。
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