本研究では、鉄欠乏性の貧血状態下における疲労要因を骨格筋自体に求め、その作用機序を動物実験により明らかにすることを目的としている。鉄代謝と糖代謝のクロストークを明らかにし、代謝障害を引き起こす分子機序の解明を試みた。 鉄欠乏食をラットに摂取させると貧血が誘発された。その際、血糖値が上昇することを確認し、鉄代謝と糖代謝間に相互関連が存在すること、また、末梢組織におけるインスリン抵抗性の存在が推察された。そこで、インスリン情報伝達分子の活性化の程度を測定したところ、骨格筋では摂食条件による違いが認められない一方、肝臓では鉄欠乏食によって同分子の活性化が低下しており、血糖値が上昇する作用機序の1つになっていると考えられる。 骨格筋のインスリン作用をさらに検討するため、試験管内において骨格筋の糖取り込み量を測定した結果、摂食条件の違いによる影響は認められなかった。また、一過性の身体運動に対する糖取り込み量も同様の結果であった。さらに、トレーニング効果の発動に関与する酵素の、一過性運動に対する活性化の程度も同等に上昇することを確認した。この条件下でトレーニングを実施した場合、ミトコンドリアが同等に増加することも確認した。以上のことは、鉄欠乏性の貧血状態下において、骨格筋の糖代謝に関する調節機能やトレーナビリティーは維持されていることが明らかになった。 鉄欠乏性の貧血状態下において、適切なトレーニングの在り方は十分に確立されていない。本研究結果から、トレーニングを継続すれば十分な効果が得られる可能性が示唆された。一方、貧血状況下において、回転ゲージに対する走行反応が低下することも合わせて確認することができた。このことは、貧血状況下においては、運動欲が生理学的に低下している可能性が推察される。よって、自発的なトレーニング量の低下等を介してパフォーマンスの低下に関与している可能性も示唆された。
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