本研究では,記憶獲得後の運動による記憶過程の変化について検討する。本年度は出生直後から0.02%PTUを飲料水として3週間母獣に投与し,母乳を介して甲状腺ホルモンの合成を阻害したオス仔ラットを実験に供した. 6週齢時にモリス水迷路課題を実施した(1試行/60秒間,4試行/日,7日間).8日目にはプラットフォームを取り除いたプローブテストを60秒間実施した.その結果,逃避潜時が有意(p<0.001)に短くなり,プラットフォームエリアの滞在時間が他のエリアよりも有意(p<0.001)に長くなったことから,学習・記憶の成立が認められた。 その後,AMPK活性化剤のAICAR投与群,走運動群,AICAR投与と走運動の両者を実施する群,コントロール群に無作為に分類した。AICARは腹腔内注射により投与した(50mg/kg体重,1回/日,毎日/2週間)。走運動はトレッドミル走とし(30分/日,毎日/2週間),1週目は走速度を10m/分まで漸増し,2週目は15m/分まで漸増した. その後,保持テストとしてプローブテストを再度実施し,海馬を摘出してWestern BlottingによってPGC-1α蛋白発現を検討した。その結果,走運動群のみプラットフォームエリアの滞在時間が運動前よりも有意に短くなり(p<0.05),記憶消去が認められた。また,走運動群はコントロール群よりも海馬PGC-1α蛋白発現が有意に高値を示し(p<0.05),ミトコンドリア機能向上が示唆された。しかし,AICAR投与と走運動の両者を実施する群でも海馬PGC-1α蛋白発現がコントロール群よりも有意に高値であったにもかかわらず(p<0.05),記憶消去が認められなかったため,更なる検討の必要性が残された。
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