研究課題/領域番号 |
16K01754
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
藤本 浩一 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (10287815)
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研究分担者 |
千足 耕一 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70289817)
山川 紘 東京海洋大学, 学内共同利用施設等, 客員教授 (80017061) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海女 / 腰痛 / 鉛玉分散装着 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、海女が腰部に集中して装着している鉛玉ついて、その装着重量から見た腰痛発症リスクを、相対リスクを用いて検討した。62名の海女を対象として腰部に装着している鉛玉重量と腰痛の有無を調査したところ、8.3 kg以上は未満と比較して腰痛発症の相対リスクが1.32倍(95%信頼区間:1.14-1.53)となり、有意であった。この他、職業性腰痛は社会・心理的ストレス要因および個人的要因の影響を受けることから、この2要因についても腰痛発症の相対リスクを検討したところ、個人的要因うち体格指数(BMI)の項目について、27.3以上は未満と比較して相対リスクが1.35倍(95%信頼区間:1.15-1.58)となり、有意である結果が得られた。なお、社会・心理的ストレス要因の全項目および個人的要因における他の項目については、有意な結果が得られなかった。 さらに、腰部に集中して装着している鉛玉の分散装着が、腰痛軽減に及ぼす効果に関する介入実験の実施について、現在、三重県志摩市の7地区の海女に対して参加要請を行っている(継続中)。7地区において腰痛ありと回答した海女のうち、12名の海女から実験参加の意思表明を受けており、この12名の海女と鉛玉分散装着の方法について、それぞれの地区における漁の形態に合うよう、個別的に検討を行っている。特に、海中の岩棚の奥まで身体を入れてアワビを採捕する漁の形態を取る地区においては、背部に分散装着した鉛玉が岩棚にひっかかるため、この問題をクリアするべく検討を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
海女の腰痛発症要因の検討・確認については、研究実績の概要で示したとおり、約8kg以上の鉛玉を腰部に装着している海女は腰痛発症のリスクが有意に高まることが明らかとなった。さらに他の職業性腰痛の傾向と異なり、社会・心理的ストレスは海女における腰痛発症の重要なリスク要因とならないこと、約27以上のBMIは腰痛発症リスクとして有意であることが明らかとなり、海女の腰痛軽減に関するバックグラウンド的事項の検討・確認は、ほぼ完了したと考えられる。 本研究で着目している腰痛発症要因である腰部に装着している鉛玉については、腰痛発症リスクを有意に高めるものであったことから、特に8kg以上装着している海女において、鉛玉を背部等に分散して装着することが腰痛軽減に関して効果的であることが期待できる。しかしながら介入実験については、実験参加の意思表明を受けた12名と、鉛玉分散装着方法について最終的な合意が得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
鉛玉の分散装着による腰痛軽減効果を検証する介入実験の実施が、今年度中に求められる。鉛玉分散装着の方法について、実験参加の意思表明を受けた12名の海女は、それぞれ漁の形態が異なる7地区にまたがっていることなどの影響もあり、12名の海女において統一した装着方法を介入実験に用いることが難しい。現状、12名の海女は、自身の腰痛の緩和に積極的に取り組んでおり、自らの漁の形態を阻害することのない装着方法について、それぞれ独自の改善を開始している。研究者はこの現状を鑑み、少なくとも、これまで腰部に集中して装着していた鉛玉重量の半分量以上を背部等に装着することを条件として、12名の海女が、それぞれ独自に、実施している漁の形態を阻害することのない方法によって鉛玉を分散装着してもらうこととする。 また、本研究の介入実験系は本来であればランダム化比較試験を用いることが適切であるが、ランダム化比較試験には腰痛を発症している海女について、分散装着しない海女で構成される非介入群を設けなければならない。しかしながら上記の経緯のとおり、腰痛ありと回答した海女で実験に参加する意思を示した海女12名は、すべて鉛玉分散装着の介入を希望しており、すでにそれぞれ独自に、鉛玉分散装着に関して積極的な改善を行っていることから、非介入群の設定が困難である。また、三重県志摩市の各地区の海女へ、実験参加要請を開始してすでに3年が経過していることもあり、今後、新たに非介入群として腰痛ありの海女に実験に参加してもらうことの実現可能性は極めて低いことが予測される。以上のことから、本研究ではランダム化比較試験の実験系を取らず、12名の海女が、それぞれ独自の方法で腰部に集中して装着していた鉛玉を背部等に分散させて装着した結果、腰痛が軽減されたか否かを調査する実験系を用いることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 介入実験の進捗遅れにより、平成30年度までに作成予定であった鉛玉分散装着のためのベスト等の作成、ならびにヨーロッパ地中海沿岸の素潜り漁師が鉛玉分散装着のために使用している、ウエットスーツ生地で作成された鉛玉を入れて使用するベストの購入ができなかった為。 (使用計画) 理由に挙げたベスト等の作成および、ヨーロッパ地中海沿岸の素潜り漁師が使用しているベストの購入に使用する。
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