研究課題/領域番号 |
16K01769
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研究機関 | 東京成徳大学 |
研究代表者 |
本多 麻子 東京成徳大学, 応用心理学部, 准教授(移行) (90339680)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 楽観性 / 感情 / ストレス / 回復性 / 心拍数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は楽観主義者の心身の健康の保持・増進のメカニズムを心臓血管系の反応性と回復性の観点から検証することである。予備調査と予備実験を行った。 過去のスポーツ場面で負ったけがと,けがから回復までの心理的変容,けがに対する認知的評価および楽観性と悲観性の関連を検討した。大学生を対象として質問紙調査を行った。その結果,コントロール可能性得点は,楽観性得点と正の相関,悲観性得点およびけが受容時期とそれぞれ負の相関があった。コントロール可能性得点が高いほどけがの受容時期が早く,コミットメント得点が高いほどけがの受容時期が遅かった。ストレスマネジメントにおいてはコントロール可能性の向上が重要である。楽観性が高いほどコントロール可能性が高く,コントロール可能性得点が高いほどけがの受容時期が早いという結果は,けがをしたアスリートの対処および心理的変容として望ましいものといえる。 ゲーム課題に伴うおもしろさ,興奮と心拍数の関係性を検討した。大学生を対象として,運次第で勝敗が決まる運ゲーム条件と,自分のスキルによって勝敗が決まるスキルゲーム条件を設定した。運ゲーム条件には「黒ひげ危機一発(タカラトミー製)」を,スキルゲーム条件には「番犬ガオガオ(メガハウス製)」を用いた。心電図の記録と解析には,RF-ECG2ワイヤレス生体センサー,PC,記録・解析プログラムMemCalc/ Bonaly-Lightを用いた。運ゲームとスキルゲームでは心拍数の反応性と回復性が異なると判明した。ゲームの勝敗が判明した後10-16秒時点ではスキルゲームの心拍数は運ゲームよりも高かった。本研究のスキルゲーム条件はコントロール可能性が高く,参加者が積極的に対処したことにより,コントロール可能性に起因した心拍数の増加が驚愕反応に重畳したために,スキルゲーム条件の心拍数は運ゲーム条件よりも高くなったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である,楽観主義者の心身の健康の保持・増進のメカニズムを心臓血管系の反応性と回復性の観点から検証するために,当初の研究実施計画に予備調査と予備実験を追加した。 近年,ポジティブ心理学では「困難で脅威的な状況にもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果(Masten, Best & Garmezy, 1990)」と定義されるレジリエンス(resilience)に注目が集まっている。スポーツ選手にとってけがは深刻な問題であり,ストレッサーとなる。予備調査ではレジリエンスを考慮して,過去のスポーツ場面で負ったけがと,けがから回復までの心理的変容,けがに対する認知的評価および楽観性と悲観性の関連を検討した。その結果,楽観性が高いほどストレッサーに対するコントロール可能性が高く,コントロール可能性得点が高いほどけがの受容時期が早いという結果を得た。この結果は,ストレスフルなできごとからの回復性と楽観主義の関連の解明に寄与するものである。 研究計画では数的課題と言語的課題を用いて,楽観性と悲観性および心臓血管系の反応性と回復性を検討する予定であった。数的課題と言語的課題の実施前に,実験参加者がより積極的に課題遂行に取り組むと予想されるゲーム課題を用いて予備実験を行った。運次第で勝敗が決まる運ゲーム条件と,自分のスキルによって勝敗が決まるスキルゲーム条件を設定した。各条件において勝敗の判明前後の心拍数の時系列変化を比較することによって,心拍数の反応性と回復性を検討した。その結果,運ゲームとスキルゲームでは心拍数の反応性と回復性が異なり,コントロール可能性に起因した心拍数の増加が驚愕反応に重畳したために,スキルゲーム条件の心拍数は運ゲーム条件よりも高くなったと考えられる。この結果は,実験課題におけるコントロール可能性と心拍数の反応性および回復性の関連を示唆するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は楽観主義者の心身の健康の保持・増進のメカニズムを心臓血管系の反応性と回復性の観点から検証することである。 予備調査の結果から,スポーツ選手におけるけがというストレッサーからの回復過程において,楽観性が高いほどストレッサーに対するコントロール可能性が高く,コントロール可能性得点が高いほどけがの受容時期が早いことから,楽観性,回復性,コントロール可能性の関連が示唆された。予備実験の結果から,実験課題におけるコントロール可能性と心拍数の反応性および回復性の関連が示唆された。 予備調査と予備実験の結果を考慮して,今後の研究ではコントロール可能性を考慮したうえでさらなる調査と実験を行う。予備調査を踏まえて,ストレッサーに対してコントロール可能性が高い場合(ストレッサーによる損害が小さい,対処の効果が期待できる)と低い場合(ストレッサーによる損害が大きい,対処が困難あるいは対処の効果が比較的小さい)の比較検討を行う。具体的にはスポーツ選手における重篤なけがと比較的軽症のけがについて,けがから回復までの心理的変容,けがに対する認知的評価および楽観性と悲観性の関連を検討する。また,次の実験では数的課題と言語的課題,スピーチ課題などのストレス課題を用いて,課題遂行にともなう心理,生理,行動指標の反応性と回復性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の学会出張等の旅費について,本研究課題とは異なる研究内容であったために大学内の研究旅費から支出した。そのために旅費の支出が使用予定額よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に物品としてパーソナルコンピュータ,ワイヤレス生体センサーRF-ECG2,ソフトウェア(心拍変動リアルタイム解析プログラム)を購入した。ワイヤレス生体センサーのRF-ECG2の追加購入あるいはソフトウェアを使用する際のUSBキーの購入を検討している。
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