本研究では、伝統芸能・武道の作用に関して、特に武道を生活習慣の中の運動習慣として、さらに精神面での鍛錬の習慣としてとらえ、これら両面の特徴を持つものとし、主として脳画像を用いて神経基盤を調べることを主たる目的とした。運動全般に関して、自己効力感を高める等、精神的健康の維持増進に寄与するとの報告があり、さらに、日本古来の武道についても、注意機能などの認知機能同様の効能が報告されている。このような背景から、機能的MRIを用いて、剣道の習慣的愛好家(有段者)のモチベーションに関する脳内ネットワーク(motivation network: MN)について、MN内の機能的結合性(FC)を、安静時および注意関連の課題(聴覚オドボール課題)施行時について、非剣道家と群間比較した。結果、剣道有段者では、安静時にはMN内のFCが低く、課題施行時には逆に高値を示した。このことより、剣道有段者では、安静時と注意課題施行時のモチベーションという点においてコントラストが大きく、安静時‐注意処理の要請があった際のモチベーションの「切り替え」に秀でており、いわば心身の鍛錬によりこれが達成されているという可能性が考えられた。MNは、気分障害等の精神疾患との関与が想定されている脳内報酬系と大きく重なり合いがある脳内ネットワークであり、また、武道において精神面が重視されることは、気分障害等に対するマインドフルネス精神療法の効能とも符合するところである。以上より、武道の精神的不調改善に対するリハビリテーション等への応用可能性が考えられた。また、武道の精神的健康増進作用に関する国際アンケートを実施し、武道の衝動性制御、自尊感情の涵養という点における効能を示唆する結果が得られ、現在も同様の調査を実施継続中である。
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