研究課題/領域番号 |
16K01791
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
緑川 早苗 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (10325962)
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研究分担者 |
大津留 晶 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (00233198)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スクリーニング / メリット・デメリット / 放射線被ばく / リスク認知 / 甲状腺がん / 過剰診断 |
研究実績の概要 |
昨年度までに得られた解析結果の中で、甲状腺検査について中学生に対する出前授業のレスポンスカードをより詳細に検討し、授業内容の理解度が高くても満足度が高くない中学生では、より検査を深刻にとらえている可能性が示唆された。これを災害後の小児のサポートに関する国際シンポジウム(CUIDAR)にて発表した。 また昨年度までに得られた結果について放射線事故後に行う甲状腺がんスクリーニングがもたらす心理社会的影響としてまとめ、IAEAにおける国際シンポジウム(international Symposium on Communicating Nuclear and Radiological Emergencies to the Public)に発表し、総説として科学評論社の内分泌糖尿病代謝内科に投稿した。 次に、昨年度までの結果から、甲状腺検査で行われている甲状腺がんスクリーニングのメリットとデメリットを、受診者ならびに住民がどの程度理解しているのか、また任意受診に対しこれらの理解がどのような影響を及ぼしているかが検討することが、甲状腺検査が対象者のメンタルヘルスに及ぼす影響を検討する上で重要と考えられた。このため甲状腺検査に関するコミュニケーションの一環として行われている説明会前後でのアンケート結果を解析し、検査のメリットデメリットの理解度、受診の意思と意思決定の要因について解析した。受診者や住民の多くは検査のデメリットの存在を知らず、検査のメリットを過大評価していることが明らかとなった。また放射線と健康に関するリスク認知との関連も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線事故後の小児ならびに若年成人における甲状腺がんスクリーニングがメンタルへするに与える影響について、甲状腺検査に関するコミュニケーションから得られた様々な指標を解析することで、対象者やその家族への心理社会的影響を明らかにしてきた。特に母親の自責感、甲状腺がん多発見によるリスク認知の変化、小児ならびに若年者の検査に対する理解の不十分さと不安ならびに自由意志に基づく参加の困難さについて、国際学会報告や論文発表を行った。この点は研究が順調に進捗している。 また当初の予定であった甲状腺機能とメンタルヘルスの関連を検討することについては進捗が滞っている。その理由として1)メンタルヘルスの指標であるこころの健康調査の結果と甲状腺検査の結果を紐づけすることが、データ利用の点から困難であること、2)甲状腺検査一次検査で採血を行うことが困難であること、3)二次検査の対象者のメンタルヘルスに関する詳細な面談は倫理的な観点より施行が困難であること、が判明したためである。この点については別の方法による検討が可能かを模索する予定であるが、実行困難な可能性もある。 一方で、研究を進める中で、甲状腺がんスクリーニングのメリットとデメリットを、受診者ならびに住民がどの程度理解しているのか、また任意受診に対しこれらの理解がどのような影響を及ぼしているかが検討することが、甲状腺検査が対象者のメンタルヘルスに及ぼす影響を検討する上で重要と考えられたため、既存の資料を解析することにより研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は既存の資料を用いて、甲状腺がんスクリーニングのデメリットの理解とメリットデメリット認知にどのような要因が関連するかならびに任意の検査である甲状腺検査の受診意思決定に関する要因解析、さらに放射線被ばくに関する不安やリスク認知と関連を検討することで、放射線事故後に行うスクリーニングが及ぼすメンタルヘルスへの影響について考察する予定である。 甲状腺機能とメンタルヘルスについては新たな採血や甲状腺機能とメンタルヘルスの指標の既存結果の紐づけが困難であることが判明したため、別の方法を模索する必要がある。二次検査をすでに受診した対象者から新たに同意を取りメンタルヘルスに関するアンケートを行うことを検討する。また一次検査会場で採血が可能かどうかを引き続き検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定されていた使用額はほぼ予定通りに使用したが、前年度から甲状腺機能測定キットの購入費を繰り越していたが、当該年度でも甲状腺機能測定の見通しが立たなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度の主な使用予定として、解析が終了した項目についての国際学会発表に係る費用、論文作成出版に係る費用、追加のアンケート調査に係る郵送費、すでに出版が決まている書籍(分担執筆)の購入を計画している。 一方で甲状腺機能測定キットについては血液検査が一次検査の検査会場で実施できるよう、引き続き依頼等を行うが、困難な場合には測定キット購入の必要性がなくなるため、これに充てていた500,000円については辞退する可能性がある。
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