本研究では、時間分解能に優れる脳磁図計を用いて、ストレスの認知的評価における個人差に関与する神経メカニズムを解明することを目的とした。主観評価として、個人内要因の測定ツールとして用いられている気質・性格尺度(Temperament and Character Inventory; TCI)、ストレス状況対処行動尺度であるCoping Inventory for Stressful Situations(CISS)、心理的ストレス反応測定尺度であるStress Response Scale-18(SRS-18)を用いてこれらの関連性を検討するとともに、ストレス対処場面での対策を講じる際の脳活動を測定した。 試験は1日間(1回)、2クロスオーバーデザインで実施した。健常成人男性19名を対象に、安静閉眼状態でストレス認知課題①、②の実施、その間の脳磁図計測を行った。また課題前後に質問紙検査を行った。認知課題①では、被験者がこれまでに精神的ストレスを感じたことがあると想定される複数場面を音声提示、設定場面状況下で認知的ストラテジー(状況に対して積極的に取り組もうとする対策)を検討するよう教示を行った。認知課題②では、課題①と同様の方法で、情動的ストラテジー(状況からの圧力に耐えられず、情動の軽減を図る対策)を検討する教示を行った。 自己志向性が高い(自己肯定感が高い)ほど、ストレス対処として情動的対処をとる程度が低く、ストレス下における抑うつレベルも低いことが示された。情動的対処をとる程度が高いほど抑うつのレベルも高いことが認められた。個人の気質・性格がストレス認知や精神的ストレス反応に関与し、ストレス場面での対処法が抑うつなどの精神的反応に影響することが示された。個人特性を考慮して、適切にストレス認知の是正を行うことにより心身状態を改善しうる可能性が示唆された。
|