研究課題/領域番号 |
16K01797
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
中村 恭子 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 先任准教授 (90365560)
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研究分担者 |
広沢 正孝 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 教授 (60218831)
鈴木 宏哉 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (60412376)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 精神科リハビリテーション / 体力・運動能力の向上 / 運動の気分改善効果 / エアロビックダンス / ヒップホップダンス |
研究実績の概要 |
精神科の患者は症状に伴う倦怠感や投薬の副作用,長期にわたる療養期間などの影響により運動不足となり,一般成人と比較して体力・運動能力が有意に低い。そこで本研究課題では,精神科デイケア通所の患者を対象とした体力・運動能力回復のための運動プログラムの検討を目的とする。 昨年度の介入実験で十分な結果が得られなかったので,29年度は再度同様の介入実験を行った。第1期(4~7月)前半には有酸素能力向上をねらいとするエアロビックダンス中心,第2期(9~12月)前半には筋力向上をねらいとするヒップホップダンス中心の運動プログラムを実施し,各期の後半は前半の動きを用いた作品練習・発表を行った。プログラムは週1回120分,1期11回,2期10回であった。効果測定として,各回活動中の運動強度・運動量計測,各回前後の心理テスト(STAI, MCL-S2),期間前後の体力測定を実施し,運動プログラムの効果を検討した。 その結果,患者が実施した1期エアロビクスは1回につき平均3.7METs×25.3分=1.56METs時であり,2期ヒップホップは平均1.92METs×41.1分=1.32METs時であった。また後半の作品練習は,1期が1回平均4.25METs×34.1分=2.42METs時,2期が2.50METs×27.7分=1.15METs時であった。心理テストでは,各期とも快感情やリラックス感が有意に向上,不安感が有意に低減し,気分改善効果が認められた。体力測定では,1期では上体起こしが有意に向上したほか,有意差はないが垂直跳びや反復横跳びがやや向上した。また,有意差はないが体重・体脂肪率の低減傾向が見られた。一方,6分間歩行や椅子立ち上がり,ステッピングテストでは有意差はないが低下傾向が見られた。2期はステッピングテストで有意な向上傾向が見られ,6分間歩行や椅子立ち上がり,垂直跳び等の脚筋力関連の項目で有意差はないが向上傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
運動介入実験は計画通り実施できたが,精神科の患者を対象としていることから,プログラムを継続実施できていない患者が多く,充分なデータ数を確保できなかったため統計的な差が得にくかった。また,それぞれ中強度以上の運動強度での運動実施を計画していたが,患者は一般成人より動きが小さく,活動中の運動強度が一般成人よりエアロビクス作品で10%程度,ヒップホップ作品では15%ほど低かったことから充分な強度が確保できず,その結果,有意な体力向上に至らなかった可能性も考えられた。28年度の反省から,運動時には大きく動くよう声かけするとともに個人指導を心掛けた結果,28年度には25%程度だった指導者の運動強度との差が軽減したが,体力測定の結果にはあまり反映されなかった。特に,体力の低い患者にとってヒップホップで脚の屈伸動作を意識的に大きくすることは難しいように見受けられた。 しかしながら,28年度,29年度と継続して介入実験を実施した成果として,エアロビクスダンスは中等度の運動強度で一定時間継続して実施するため運動量を確保しやすく,エネルギー消費効果を得やすい運動であると示唆された。一方,ヒップホップダンスは大きな上下動を実施しきれない患者が多く,期待した運動強度を得ることができないながらも,患者の脚筋力向上,歩行動作の向上により有効に作用する可能性が見受けられた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では,筋力トレーニング系,調整力トレーニング系,持久力トレーニング系の運動プログラムを順番に実施して運動効果を測定する予定であったが,28年度,29年度は有酸素能力向上をねらいとするエアロビックダンス,脚筋力向上をねらいとするヒップホップダンス中心のプログラムを2期ずつ実施した。その結果,28年度,29年度ともに有意な体力向上効果は認められなかったが,エアロビックダンスは運動量の確保,ヒップホップダンスは脚筋力の向上につながる可能性が認められた。そこで,平成30年度の第1期は筋力および持久力向上トレーニングとして,やや速めのテンポの曲に合わせたヒップホップを持続的に実施するプログラムを考案し,体力向上効果を確認する計画に変更することとする。 一方,調整力トレーニング系プログラムとして片足立ちや姿勢保持,前後左右への重心移動,素早い切り替え動作等を多く取り入れた運動プログラムを考案する必要があるが,特に片足立ちや姿勢保持の動作は運動強度が低く,全体的な体力向上にはつながりにくいことが予測される。運動強度・運動量を確保しつつ多様な動きを取り込んだコーディネーション系ダンスプログラムの開発と介入実験を第2期に実施し,その効果を検討することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度の未使用額57,506円は主にその他の文具や印刷費が予定より少なくて済んだための余剰金である。30年度はこれまで以上に患者の個別指導に力を入れる計画であるため,余剰金は運動指導補助学生への謝金の不足分に充当する予定である。
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