研究課題
本研究の目的は、脂質代謝を制御するマスターレギュレーターであるSREBP-1の活性化を制御する新規プロテアーゼXによる新たな脂質代謝制御機構を解明し、脂質代謝異常を改善する分子基盤を構築することである。平成28年度には、プロテアーゼXノックアウトマウスの作製が完了し、その表現系の解析を進めた。また、培養細胞を用いた実験により、分子レベルの解析を進展させた。CRISPR/Cas9 systemにて短期間で効率的にマウスを作製する技術を、筑波大学生命科学動物資源センターとの共同研究で行い、新規プロテアーゼXのノックアウトマウスの作製に成功した。このノックアウトマウスを用いて、研究計画通り、1)SREBP-1の切断、タンパク質修飾、2)SREBP-1標的遺伝子の発現変動、3)生体内脂質パラメーターの測定を行った。多様なシグナルにより活性化されるSREBP-1に対するプロテアーゼXの作用を検討するため、様々な飼料、負荷条件の検討を行った。その結果、高脂肪飼料負荷条件において、プロテアーゼXノックアウトマウスは野生型マウスに対して、SREBP-1切断、及び標的遺伝子の低下を引き起こすことが認められた。これらの結果により、プロテアーゼXは、特異的な条件により活性化されたSREBP-1の切断を担っていることが示唆された。細胞系を用いた実験では、プロテアーゼXとSREBP-1のタンパク質間相互作用、及び細胞内での共局在を明らかにすることができた。しかし、これらのタンパク質間アフィにティーは弱く、共免疫沈降法による結合部位の同定は困難であった。そのため、他の手法を用いたアッセイ系を検討中である。本年度の研究により、プロテアーゼXが既存のSREBP-1切断酵素とは異なる分子機構で作用する新規SREBP-1活性化因子であることを、細胞系、マウスを用いた生体系で明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、新規プロテアーゼXによるSREBP-1切断と脂質異常病態との関連を明らかにすることを目指している。平成28年度は、当初の計画通りプロテアーゼXノックアウトマウスを作製し、その表現系の解析を進めた結果、野生型マウスとは異なるSREBP-1活性化制御を示すことを明らかにすることができた。また、細胞を用いた実験により、プロテアーゼXによるSREBP-1の制御機構についての分子レベル解析を進展させることができたため、今年度の研究達成は十分であったと評価する。プロテアーゼXノックアウトマウスは、CRISPR/Cas9 systemを用いることにより、短期間で効率よくを作製することができた。マウスを用いたSREBP-1活性化解析の結果、高脂肪飼料負荷条件において、プロテアーゼXノックアウトマウスは野生型マウスに対して、SREBP-1切断、及び標的遺伝子の低下を引き起こすということを見いだすことができた。SREBP-1の活性化指標として、1)SREBP-1の切断、タンパク質修飾、2)SREBP-1標的遺伝子の発現変動、3)生体内脂質パラメーターの測定を行った。SREBP-1の切断、標的遺伝子の発現変動、生体内脂質パラメーターの変動にはタイムラグがあり、プロテアーゼXノックアウトにおいて、野生型と異なる表現系を示すには、特殊な飼料や投与期間が必要であることが明らかになった。今後、さらなる飼料や負荷条件による作用点をより詳細に探って行く必要があると考えられる。細胞を用いた実験によっては、プロテアーゼXとSREBP-1のタンパク質間相互作用、及び細胞内での共局在を明らかにすることができた。また、プロテアーゼXによるSREBP-1の切断部位を同定するため、予備実験を行った。その結果、既存のSREBP-1切断部位とは異なる部位を切断する可能性が示され、より詳細な解析を進めている。
今後は、作製したプロテアーゼXノックアウトマウスの、より詳細な解析とともに、疾患モデルマウスを用いた解析を行い、病態との関連性を探って行く。また、プロテアーゼXが作用する際のSREBP-1複合体を解析し、共役因子群の探索・同定を試みる。さらに、これまでに明らかになっている、多価不飽和脂肪酸によるSREBP-1活性化抑制におけるプロテアーゼXの役割を明らかにしていく。疾患モデルマウスにおける、SREBP-1活性化機構の解析を行う。種々の肥満モデルマウス、ob/obマウス、db/dbマウス、KK-Ayマウスなどの検討予定で、アデノウィルスを用いた一過的過剰発現やノックダウンのシステムは構築済みである。疾患モデルマウスにおける、プロテアーゼXの発現や活性化制御についての詳細な解析を行い、SREBP-1活性化亢進機構を明らかにする。さらに必要であれば、プロテアーゼXのノックアウトマウスと疾患モデルマウスとの交配も行い、生理的意義を解析していく。SREBP-1が活性化されるためには、既存のSREBP活性化システムに含まれない因子群が制御している可能性も考えられる。そのような因子、あるいはプロテアーゼXの活性と共役する因子の探索・同定を行う。プロテアーゼXの過剰発現やノックダウン細胞を用いて、SREBP-1複合体を細胞から精製し、タンパク質の解析を行う。さらに、SREBP-1複合体の生体内での作用も探っていき、必要であれば、共役因子の過剰発現やノックダウン実験を検討する。脂質異常症などの病態においてSREBP-1が活性化される分子機構が明らかにできたら、その活性化を抑制、または制御できる因子の探索を行う。これまでに、多価不飽和脂肪酸や、キナーゼ、フォスファターゼ、シャペロンタンパク質が知られているが、疾患モデルマウスを用いて効果的なSREBP-1活性化抑制因子の同定を試みる。
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