研究課題/領域番号 |
16K01811
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
韓 松伊 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (80729541)
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研究分担者 |
中川 嘉 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (80361351)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | SREBP-1 / プロテアーゼ / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
本研究では、SREBP-1活性化を制御するプロテアーゼXによる新たな脂質代謝制御機構を解明し、脂質代謝異常を改善する分子基盤を構築することを目的としている。平成28年度までに、プロテアーゼXノックアウトマウスを作製し、プロテアーゼXが既存のSREBP-1切断酵素とは異なる分子機構で作用する新規SREBP-1活性化因子であることを示すことができた。 平成29年度には、ノックアウトマウスの肝臓サンプルからRNA-seqを行い、プロテアーゼXによる遺伝子発現変動の網羅的解析を行った。また、研究計画通りにSREBP-1複合体の解析を行った。 まず、ノックアウトマウスにおいて、SREBP-1の活性化型の低下を伴った代表的なSREBP-1標的遺伝子の低下を確認した。他のSREBP-1標的遺伝子の発現変動や、プロテアーゼXの新規標的遺伝子を同定するため、網羅的解析を行った。標準飼料または高脂肪飼料負荷した、野生型及びノックアウトマウスの肝臓からRNAを抽出し、RNA-seq解析を行った。解析の結果、標準飼料と高脂肪飼料負荷時において、プロテアーゼXによる遺伝子発現変動は異なることが示された。高脂肪飼料負荷時においては、SREBP-1標的遺伝子群の発現変動が顕著であったのに対し、標準飼料ではプロテアーゼXによる新たな遺伝子群の発現変動を見出すことができた。 SREBP-1はER膜上で、SCAPやInsigといった因子と複合体を形成していることが知られている。今回、新たに同定したプロテアーゼXがこの複合体とどのように関わっているかを検討するため、免疫沈降法を用いた解析を行った。その結果、プロテアーゼXがSREBP-1-SCAP-Insig複合体と相互作用することが示された。今後、コレステロールや脂肪酸、その他の環境要因によりこの複合体の動態がどのように変動するかを検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、新規プロテアーゼXによるSREBP-1活性化制御に焦点を当て、生体材料(マウス)を用いて解析を行い、より生理的な機能の解析を行うことを計画している。平成28年度までにプロテアーゼXノックアウトマウスを作製し、マウス肝臓内でプロテアーゼXがSREBP-1を切断し、標的遺伝子の発現を制御していることを示した。平成29年度はノックアウトマウスを用いた網羅的解析及び既存のSREBP-1複合体とプロテアーゼXの相互作用を示すことができ、今年度の進捗は概ね順調に進展していると評価する。 網羅的解析は、標準飼料または高脂肪飼料負荷した、野生型及びノックアウトマウスの肝臓からRNAを抽出し、RNA-seq解析を行った。高脂肪飼料負荷時にはSREBP-1標的遺伝子群の発現変動が顕著であったのに対し、標準飼料ではSREBP-1以外の遺伝子群の発現変動を見出すことができた。このことより、プロテアーゼXによるSREBP-1活性化機能を確認するとともに、プロテアーゼXによる新たな活性化機能の可能性を示唆することができた。今後はプロテアーゼXによるSREBP-1活性化や新規活性化機構の詳細な解析を行っていく。 ER膜上でSREBP-1はSCAP-Insigといった因子と複合体を形成することにより、コレステロールや脂肪酸などの環境要因による切断及び活性化制御を受けることが知られている。今年度の研究により、プロテアーゼXもこの既存の複合体と相互作用することが示され、たんぱく質間結合やたんぱく質の安定性などが制御されることが見出された。プロテアーゼXは多価不飽和脂肪酸によりSREBP-1の活性化を制御していることを示しているが、今後は他の環境要因も含め、たんぱく質の分解、切断、翻訳後修飾などの分子機序について明らかにする必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、プロテアーゼXによるSREBP-1切断による活性化制御と脂質異常病態との関連性を明らかにすることを目指している。今後は、当初の計画通り、病態モデルマウスにおける、SREBP-1活性化機構の解析を行う。また、SREBP-1活性化を抑制する因子の探索を行う。 病態モデルマウスとしては、種々の肥満モデルマウス、ob/obマウス、db/dbマウス、KK-Ayマウスなどの検討を予定しており、アデノウィルスやAAVを用いた一過的過剰発現やノックダウンのシステムを構築している。病態モデルマウスにおける、プロテアーゼXの発現や活性化制御についての詳細な解析を行い、異常なSREBP-1活性化亢進機構を明らかにする。さらなる、プロテアーゼXのノックアウトマウスと疾患モデルマウスとの交配も行い、生理的意義を解析していく。 脂質異常症などの病態においてSREBP-1が活性化される分子機構が明らかにできたら、その活性化を抑制、または制御できる因子の探索を行う。これまでに、多価不飽和脂肪酸や、キナーゼ、フォスファターゼ、シャペロンタンパク質が知られているが、病態モデルマウスを用いて効果的なSREBP-1活性化抑制因子の同定を試みる予定である。 SREBP-1の活性化機構は多種多様であり、プロテアーゼXによるSREBP-1活性化においても単なる切断制御だけではなく、たんぱく質の安定性や他の因子との関連性が明らかになってきた。このような分子機構を解明することで、脂質異常症における多彩な経路による異常なSREBP-1の活性化を制御することができると考えている。さらに、プロテアーゼXによるSREBP-1の制御は脂質異常症にだけではなく、細胞増殖や炎症など他の機能とも関連する可能性が示唆され、今後は新たな機能の解析も試みる予定である。
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