活性型ビタミンDであるカルシトリオールは、虚弱高齢者の筋力低下や転倒に対して、その効果が期待されている薬剤であるが、骨格筋に与える影響については不明な点が多い。そこで本年度は、カルシトリオールが骨格筋のタンパク質合成に及ぼす影響について、細胞培養系を用いて検討した。C2C12筋芽細胞を血清濃度を下げて培養することによって分化誘導した筋管細胞を実験に用いた。予備実験により、ビタミンD受容体(VDR)タンパク質とビタミンD代謝酵素(CYP27B1およびCYP24A1)mRNAの発現を確認した。さらに、カルシトリオール処理により、VDRとCYP24A1のmRNAの発現が4-5倍以上増加することを確認した。タンパク質生合成の評価は、ピューロマイシンを用いたSUnSET法により行った。急性効果を調べるため(実験1)、筋管細胞を16時間血清飢餓状態で培養し、その後24時間カルシトリオール(1-10 nM)で処理した。また、慢性効果を調べるため(実験2)、筋管細胞を72時間カルシトリオール(1-10 nM)で処理した。カルシトリオールを添加した培地は24時間毎に交換した。実験1では、カルシトリオール処理によりピューロマイシンラベルされたタンパク質はおよそ50%減少した。実験2でも、およそ20%減少した。次に、その制御機構を明らかにするため、IGF/PI3K/AKT/mTORシグナル経路に注目した。カルシトリオール処理によりIGF-1およびIGF-1R、IGF-2RのmRNA発現量が低下した。また、Akt(Thr308、Ser473)、p70S6K (Thr389)、S6RP (Ser235/236)、4E-BP1 (Thr37/46)のリン酸化レベルが低下していた。これらの結果は、カルシトリオールが筋細胞のタンパク質合成を下方制御する可能性を示唆する。
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