研究課題/領域番号 |
16K01814
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山嶋 哲盛 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (60135077)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多価不飽和脂肪酸 / ヒドロキシノネナール / 海馬 / 肝臓 / 膵臓 / Hasp70.1 / 細胞死 / サル |
研究実績の概要 |
ω-6系多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、加熱により過酸化脂質であるヒドロキシノネナール(HNE)に変性する。そのためω-6系PUFAの長期摂取は神経変性疾患や心血管疾患、肝臓病など様々な疾患を引き起こすと考えられているが、動物モデルなどを用いin vivoでの研究はなされていない。平成29年度には、ニホンザルやマウスに一定期間HNEを投与し、サルについては脳や肝臓、膵臓および脂肪組織などの細胞変性を組織学的に検討し、マウスについては脂肪肝、脂肪肝炎、脂肪組織炎症、糖代謝に対する影響を評価した。毎週5mgのHNEを静脈注射することを半年間続けた結果、サルにおいては海馬の錐体細胞の壊死がみられた。肝細胞も局所的な壊死とバルーニング変性をきたし、マロリー小体も形成されていた。膵臓のβ細胞は空胞変性をきたし、細胞数が減少していた。一方、サルとマウスの両者においてHNE投与により脂肪組織にcrown-like structureが出現し、60%高脂肪食誘導性肥満マウスにおいて炎症性変化が増悪することを見出した。また、HNE投与マウス脂肪組織の細胞表面マーカー解析において、炎症性誘導性マクロファージ(M1)が増加し、炎症抑制性マクロファージ(M2)が減少し、M1/M2比が上昇していた。このような炎症性変化がインスリン抵抗性を引き起こすと推測された。以上より、リノール酸に由来するHNEにより、マクロファージ極性がM2からM1へのシフトし、脂肪組織あるいは脂肪肝における炎症を促進し、糖尿病発症や非アルコール性脂肪肝の発症に関与する。同時に、HNEによってHsp70.1がカルボニル化を受けた結果、カルパインによって分解されやすくなり、その結果、Hasp70.1のシャペロン機能とリソソーム巻くの安定化ができなくなるために、神経細胞や肝細胞、膵臓β細胞の変性が進み、細胞死をきたすと結論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ω-3系の多価不飽和脂肪酸(PUFA)は神経細胞膜に取り込まれその流動性を高めるため、脳機能維持に必須である。一方、ω-3系とは異なりω-6系のPUFAは加熱により過酸化脂質であるヒドロキシノネナール(HNE)やトランス脂肪酸を産生しやすい。そのため、ω-6系PUFAの長期摂取により神経細胞や膵臓β細胞は変性し得る。摂食時の血中脂肪酸の変化を視床下部のGPR40は検知し、その信号強度に応じてインスリン分泌を調整する。このbrain-lipid sensingは生体の恒常性維持を司るが、その異常は肥満や動脈硬化、糖尿病などの病気につながる。本研究は脂肪酸の過剰摂取や酸化型脂肪酸に対して過剰反応を示すGPR40に注目して生活習慣病の病因を解明するのが目的である。その理由は、HNEやトランス脂肪酸、抱合型脂肪酸はGPR40と結合して過剰のCa2+動員と2次的な細胞変性をきたすからである。げっ歯類に比べてGPR40の脳内発現量が著しく多いサルを用いて脂肪酸の異常が惹起する細胞変性を追跡し、GPR40の関与に着目してアルツハイマー病や糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)等の病態を解明するのが本研究の最終目標である。前者の目標に関しては昨年度まででほぼ検索を終了したが、後者の目標ことにGPR40の関与に関してはなお継続的な研究を行っており、最終的な結論は未だ得られていないが、平成30年度には最終的な結論を出せる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
サルに一定期間HNEを静脈内投与した後定期的に採血し、生活習慣病関連のバイオマーカーが変化してゆく過程を追跡し、解剖により採取した各臓器における細胞変性をGPR40との関連において、以下の2つの方法により解析する。 1)HNE投与前後の脳・肝臓・膵臓組織の組織化学的解析 TUNEL法によって細胞死の数を定量化し、Hsp70.1とその関連蛋白、GPR40およびカテプシンB、L、Dに対する抗体を用いて、それぞれの免疫組織化学的局在を検索する。カテプシンに関しては、リソソームに限局しているか、あるいは細胞内外に散逸しているかに着目する。すなわち、虚血性神経細胞死の原因として申請者が1998年に提唱したカルパインーカテプシン仮説で、HNEによる肝臓や膵臓の細胞変性・壊死も説明できることを証明する。同時に、海馬については、新生ニューロンのマーカーであるPSA-NCAMに対する抗体を用いて、ニューロン新生の増減を評価する。 2)HNEの投与前後の脳・膵臓組織のウエスタンブロット解析 Hsp70.1とその関連蛋白、およびGPR40に対する抗体を用いて、それぞれの蛋白発現量を検索する。Hsp70.1に対しては、抗カルボニル化抗体を用いて、カルボニル化Hsp70.1の発現変化を評価する。Hsp70.1の関連蛋白としては、μカルパイン、lysosome-associated membrane protein(LAMP2)、酸性スフィンゴミエリナーゼなどに注目する。組織の前処理によってリソソーム分画と非リソソーム(サイトゾール)分画とに分け、両者を比較することでカテプシン酵素のリソソーム外への放出の有無とその程度を解析する。この結果を上記の免疫組織化学的結果と比較することにより、HNEによって生じるリソソーム膜の透過性亢進の程度や膜破裂の有無について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として計上し、米国に発注していた薬剤の購入価格が為替レートの関係で安くなったため、使用額が少なくなったので、この分を次年度の薬剤購入費用に充てることにした。
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