リノール酸を主成分とする食用油(いわゆるサラダ油)を揚げ物調理中に加熱すると、酸化力が強いヒドロキシノネナール(HNE)という過酸化脂質が生じる。同様に、細胞膜に取り込まれたリノール酸も種々の酸化刺激で変性し、体内でHNEを作る。したがって、HNEの血中濃度は加齢と共に漸増し、ことに50歳以降になると急増する。 HNEは血管プラークやアミロイドβに集簇し周辺に拡散するが、アルツハイマー剖検脳においても残存濃度が高い。サル脳を用いた申請者らの研究では、HNEはリソソーム膜を安定化する熱ショック蛋白Hsp70.1のカルボニル化をもたらし、Hsp70.1はカルパインによって切断され易くなった。その結果、リソソーム膜の透過性が亢進しカテプシンが漏出することが種々の臓器において細胞死を惹起する。すなわち、HNEは中・長鎖脂肪酸の受容体であるGPR40を介して神経細胞や肝臓・膵臓の細胞を過剰興奮させ細胞死を惹起する。 本研究においては、5mgのHNEを毎週1回半年間にわたり総計25回静脈内注射した後に脳と肝臓、膵臓を組織学的に調べると、海馬CA-1の神経細胞死と肝細胞の壊死および膵臓β細胞の空胞変性がみられた。採血では、AST、ALTおよびΓ-GTPの上昇などがみられた。以上から、次の3点が示唆された。 1)ヒトと同様にGPR40を高発現するサルを対象とすることで、HNEによるHsp70.1の機能障害がGPR40を介し脳・肝・膵の細胞死を惹起し得る。2)ω-6系のリノール酸を主成分とするサラダ油が、アルツハイマー病や2型糖尿病、非アルコ-ル性脂肪性肝炎(NASH)などの生活習慣病の原因物質である可能性が高い。3)アルツハイマー病や2型糖尿病、NASHなどの生活習慣病の根本原因である細胞死は、実は脳梗塞と共通性の高い分子基盤によって生じる可能性が高い。
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