研究課題/領域番号 |
16K01818
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小笠原 一生 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70443249)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 前十字靭帯損傷 / リハビリテーション / 巧緻性 / 調整力 / 体性感覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は運動器外傷により低下した動作の巧緻性(巧みさ:Dexterity)を再獲得させる大脳 皮質の多領域にわたる可塑的メカニズムについて解明する。これを達成するため、運動器の回復過程がよく調べられている膝前十字靱帯(ACL)再建術後をモデルとして独自開発した巧緻性テスト(m-Dex テスト)と近赤外線分光法(NIRS)による脳活動評価を行う。 平成28年度は、巧緻性テスト(m-Dex テスト)を実施するためのデバイス(mDexデバイス)の構築と精度検証、安全性テストおよびソフトウェア構築を行った。mDexデバイスは軽量なリンク機構を下肢で操作することで、内蔵された加速度センサやポテンショメータから下肢がmDexデバイスに与えた運動学的情報を計測する。その情報から運動方程式を介して下肢が生成した力を算出し、その滑らかさや時空間的な再現性の高さ、左右差を視覚化することで巧緻性の評価を可能とするものである。精度実験を反復し、計算上得られる下肢の作用力と測定値が実際的レベルで一致することを確認した。このことにより、着地やランニングが許可されていない早期のACL損傷患者(アスリート)も、転倒のリスクのない仰臥位にて疑似荷重状態の下肢三関節の協調を評価、訓練することが可能となった。 また、他の進捗としてはmDexデバイスおよびこれを用いたmDexテストの特許申請のためのプロセスを進めている。また平成29年度からの実験本格化に向けて大阪大学医学系研究科研究倫理委員会の倫理審査を終了させ、前十字靭帯(ACL)損傷者を対象としたmDexテストの予備実験を行った。この予備実験を通じて計測手順の見直しや、テスト項目の簡便化など前向きな課題を得た。対外的な成果発表は特許申請との関連から現在のところ差し控えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の進捗については概ね順調に進展している。備品費で計上したmDexデバイス2台も順調に構築された。mDexデバイスに関しては、途中、想定できていなかった設計上な是弱性が明らかとなったが、早急に設計を見直し、問題を解決した。ハードウェア側の進捗は予定通り平成28年度で完了している。ソフトウェア側では、対象者に可視フィードバックする内容として、1)角度再現性、2)リズム変動、3)足膝股関節の反復運動の空間的ばらつき、などであり、これらはリアルタイムに対象者に提示できるようソフトウェアの洗練を進めてる。ソフトウェアがが平成28年度中に完了できなかった要因としては、下肢巧緻性を表象するのに適した物理量の選定に時間がかかっていることである。巧緻性の解釈が多岐に渡るため、特定の物理量で全体を表すことが困難であった。このため、デバイス名にもあるmultipleが表すように、複数指標での下肢巧緻性評価に向け、指標の決定を急ぐ。 ACL損傷者を対象とした予備実験も数回実施し、平成29年度から本格化する実験に向けて順調に準備が進んでいる。また、合わせて知財戦略も進めた。 研究計画では、mDex計測の拠点を大阪大学と武庫川女子大学の2拠点としていたが、mDexデバイスの十分な精度検証と安全性確認が完了するまでは大阪大学1拠点での実施としている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度中盤からはACL損傷者を対象とした観察実験を予定している。これに向けて、当面はリハビリの進捗に応じた、対象者のリクルーティングを実施する。また、合わせて、mDexデバイスの高精度化とソフトウェア・パッケージの洗練化を実施していく。知財戦略の進捗によっては、平成29年後半より学術成果の公表(mDexデバイス構築についての成果報告)を加速させる。 今後の進捗に関わる懸案としては、NIRS計測での協力を依頼していた神経内科医の所属が遠方へ変わったことで、研究協力体制の見直しが必要となった点である。また、このことによってNIRS計測の使用機材の変更も生じてくる。この問題については平成29年度早期に対応する。 本研究で対象とする適正時期のACL損傷患者(アスリート)が研究期間内に現れるかどうかも、本研究の進捗を左右する要素である。この点については、連携研究者である整形外科医との連携のもと、ACL損傷患者の不都合とならない配慮のもと、実験への協力を求めていく。 平成29年度の数値目標としては、10名のACL損傷者を対象としたmDexテストの実施である。ただし、下肢巧緻性に影響を及ぼす整形外科的疾患には、足関節捻挫や後十字靭帯(PCL)損傷などもあるため、これらの外傷についても積極的にテストを実施し、外傷のタイプに応じた巧緻性回復の可塑特性の把握につなげたい。
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