本研究は、膝前十字靭帯(ACL)損傷後の回復過程にて、巧緻性(下肢関節間の巧みな協調運動)に着目し、その機能下腹程度を評価するための新手法の開発を目的とした(目的1)。また、ACL損傷の運動器の回復過程はよく調べられているが、中枢側の回復様相は明らかではない。特にダメージを受けた膝からの感覚入力が回復の過程でいかに補償され、巧みさの回復に貢献するかは明らかではない。そこで、運動課題時の脳活動をNIRSで多点計測し、巧緻性の回復に貢献する中枢側の可塑様相を評価をすることも目的とした(目的2)。2016-2018年にかけて、のべ6名のACL損傷再建者を対象に評価を行った。また、同数の対象者を得た。目的2のNIRS評価は担当する研究者の退職に伴い、遂行が困難となり、2017年時点で運動器側の評価のみを行うことにした。 目的1において、下肢巧緻性評価デバイス(Multiple Dexterity Evaluation Device:mDex)を設計開発し2台を作成した。これを用いてACL再建者の術後評価を行った。対象者には仰臥位、脚挙上姿勢にて、目前に提示されたモニタ上でサイン波状に上下する教師刺激に合わせて足膝股関節を同時に屈曲伸展させ、mDexのフットプレートを上下動させるレッグプレス様のタスクを行わせた。mDexの角度センサより上げ下げの大きさ、スムースさ(躍度)、複雑さ(Approximate Entropy:AP)を算出した。特に動きの複雑さを表すAPが術後経過に伴い増大した。歩行等のタスクではこれまでも機能回復に伴いAPが増大し動きにヒトらしい複雑さが回復することは報告があったが、足軌道がデバイスに拘束された状態でもAPの増大が確認できたことは新規な知見であった。 mDexは術後早期に巧緻性回復を狙うにあたり、安全で効果があり、評価も行える方法として提案できるものである。
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