研究課題
GLUT2の発現におよぼすChREBPの影響について調べるため、ChREBP KOマウスにおけるGLUT2のmRNAレベルを野生型マウスと比較した。その結果、肝臓、小腸、脂肪組織、骨格筋においてKOマウスにおけるmRNAレベルは野生型マウスに比べて減少していた。また、その減少の程度は臓器間で異なっており、肝臓、骨格筋ではその発現がほぼ消失していたのに対して、小腸、脂肪組織における減少の程度は約50%であった。一方、腎臓においては野生型マウスとKOマウスの発現レベルに大きな違いは見られなかった。ChREBP KOマウスの血糖値は野生型マウスに比べて高いことから、これらの結果は、これまで考えられてきたようなGLUT2の発現制御がグルコース濃度に依存しているのではなく、グルコース濃度の上昇によるChREBPの活性化が重要であることが示唆された。 また、腎臓、小腸、脂肪組織においては、ChREBP以外に発現を制御する因子があることが示唆された。さらに、GLUT2は発現レベルばかりでなく、局在もグルコース濃度依存的に変化することが報告されていることから、ChREBPの活性化がGLUT2の局在に影響を与えることが示唆された。そこでChREBPの恒常活性化体を安定発現した細胞を樹立する必要があるが、これまでに報告されている恒常活性化体は分解が早く解析できない可能性があるため、分解されない恒常活性化体の探索を行った。まずは、分解を促進する因子の探索を行った結果、O-GlcNAc修飾により分解が促進されることが明らかとなったため、ChREBPのO-GlcNAc修飾部位を同定した。その結果、O-GlcNAcは、ChREBPの500-600番目のアミノ酸上に3残基結合していることが明らかとなり、修飾部位を含まない変異体は分解されないことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に基づきChREBP KOマウスにおけるGLUT2のmRNA発現レベルに関する検討は終了し、ChREBPがGLUT2の発現を制御していることを示唆できた。また、ほぼ全ての臓器でGLUT2の発現レベルが減少していたことから、KOマウスの臓器を用いた局在の検討は行わないこととし、腎臓においては発現レベルに違いが見られなかったことから、尿中グルコース濃度の測定に関しても行わないこととした。次にChREBPの恒常活性化体を安定発現した細胞を樹立するため、グルコース濃度に依存せず、分解されにくいChREBPの恒常活性化体について検討し、O-GlcNAc修飾がChREBPの分解を促進することを明らかにし、ChREBP上のO-GlcNAc修飾部位を同定した。また、O-GlcNAc修飾部位を含まない変異体は、これまでに報告されているChREBP-betaなどのアイソフォームに比べて分解されにくい変異体であることを明らかにした。現在は、野生型のChREBPとともに新たに見出した変異体について極性を有する細胞であるヒト肝癌由来のHepG2細胞や大腸癌由来のCaco-2細胞、そして腎臓のモデルとしてMDCK細胞に安定発現させた細胞を作成中である。また、CRISPR/Cas9システムを用いたChREBPのKO細胞の作成に関しても現在検討を進めている。研究計画では、安定発現細胞に関する解析も行う予定であったが、安定発現細胞の樹立後は速やかに実施できる内容であり、大きな遅れではないと考えている。以上の理由から、研究計画は概ね順調に進展していると考えている。
ChREBP KOマウスにおいてGLUT2のmRNA発現レベルが減少していたことから、ChREBPが直接GLUT2の発現に関与しているか明らかにするため、GLUT2の発現に対するプロモーター活性を検討する。ChREBPがGLUT2のプロモーターとして機能しているのであれば、ChREBPが結合するプロモーター部位の探索を行う。また、現在作成中であるChREBPの安定発現細胞を樹立した後、ChREBPの過剰発現によるGLUT2の発現、局在の変化について検討する。GLUT2の局在におよぼす糖鎖の影響について検討するため、ChREBP KOマウスと野生型マウスの肝臓、小腸、腎臓、脂肪組織における糖鎖構造の変化を検討するとともに、樹立した過剰発現細胞における糖鎖構造の変化についても検討を行い、ChREBPの発現が糖鎖構造に与える影響について検討する。さらに、その糖鎖構造の違いからGLUT2の局在に与える影響についても検討する。
生じた次年度使用額は5万円以下と少額であり、当初の予定通り使用できたと考えている。
次年度使用額は少額であることから、計画以外の物品を購入することなく、研究計画通りでの使用を予定している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
BIO Clinica
巻: 6 ページ: 121-125
細胞
巻: 49 ページ: 81-84
Journal of Biological Chemistry
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10.1074/jbc.M115.708982
http://www.hosp.kobe-u.ac.jp/yakuzai/Pharm/index1.htm