研究課題
昨年度までの研究によりChREBP KOマウスの肝臓、小腸、脂肪組織、骨格筋におけるGLUT2 mRNAの発現が野生型マウスに比べて減少していたことから、ChREBPがGLUT2の発現を制御していることが示唆された。そこで、ChREBPによるGLUT2の発現制御機構を詳細に検討するため、ChREBPがプロモーター/エンハンサーとして機能しているか、また機能しているのであればその結合部位の同定を行うこととした。GLUT2の転写開始点の上流2000bpまでに関しては既知のChREBPの結合配列は存在しないが、未同定の配列に結合することも考えられたため、転写開始点の上流2000bpまでと下流500bpまでをレポーターベクターへサブクローニングし、ヒト肝癌細胞(HepG2)に導入後ルシフェラーゼアッセイによるレポーター活性の評価を行った。その結果、ChREBPの発現の有無によりルシフェラーゼ活性に大きな違いが認められなかったことから、-2000/+500までの領域にChREBPは結合しないことが示唆された。また、ChREBPの過剰発現によるGLUT2の発現と局在の変化を調べるため、レトロウイルスによりFLAGタグを付加したChREBPをHepG2細胞に遺伝子導入し安定発現細胞を樹立した。ウェスタンブロット法によりタンパク質が検出できる程度まで発現が増加した細胞が得られたが、得られた細胞を用いてGLUT2 mRNAの発現変化を調べた結果、大きな変化は認められなかった。さらに、小腸においてグルコース濃度の上昇によりGLUT2の局在が側基底膜ばかりでなく刷子縁膜側にも局在することが報告されていることから、ヒト結腸癌細胞(Caco-2)においても同様の現象が見られるか調べるため、高グルコース濃度下で培養後、刷子縁膜側に局在しているタンパク質のみをビオチン化して回収し、ウェスタンブロット法によりGLUT2の局在を確認したが、刷子縁膜側のタンパク質からGLUT2を検出することはできなかった。
2: おおむね順調に進展している
ChREBPはGLUT2の転写開始点の上流(-2000/+500)に結合しないことが明らかとなったことから、ChREBPはGLUT2の転写開始点の下流に結合すると考えられる。転写開始点の下流域には既知のChREBPの結合配列が6ヵ所存在するため、そのいずれかに結合することが予想される。現在までに6ヵ所全ての領域に関してレポーターベクターへのサブクローニングが完了しており、現在結合部位の同定を行っている。したがって、ChREBPによるGLUT2の発現制御機構の解明に関してはおおむね計画通りに進展していると考えている。ChREBPの過剰発現によるGLUT2の発現と局在への影響に関しては、野生型ChREBPの安定発現細胞の樹立に成功したが、ChREBPの発現量が不十分、または全長ChREBPの活性が低いためにGLUT2の発現に変化が見られなかったと考えられる。その対応策として全長ChREBPに比べて活性が高いことが報告されている177番目のアミノ酸までを欠損したChREBP-betaを導入した安定発現細胞の作成を現在行っている。また、小腸におけるGLUT2の局在変化に関する検討に関しては、Caco-2細胞において刷子縁膜側への局在が確認できなかったため検討ができていないが、その他の細胞を用いてChREBPの過剰発現が糖鎖構造へ与える影響についてはすでに検討を開始しており、研究計画に大きな遅れはないと考えている。
ChREBPによるGLUT2の発現制御機構に関しては、ChREBPの結合部位を同定後、詳細な発現制御機構を検討し、各臓器による発現制御の違いについて明らかにしていく。また、現在作成中であるChREBP-betaの安定発現細胞を樹立した後、ChREBPの過剰発現がGLUT2の発現に与える影響を明らかにする。小腸におけるGLUT2の局在変化に関する検討に関しては、Caco-2細胞による検討ができなかったため、Caco-2細胞以外で極性を有するヒト結腸癌細胞であるHT29を用いて検討を行う予定である。刷子縁膜側への局在が確認できれば、刷子縁膜側と側基底膜側のGLUT2の糖鎖構造の違いについて明らかにし、糖鎖構造の違いが局在に及ぼす影響について検討する。また、ChREBPの過剰発現が糖鎖構造やドナー基質量にどのような影響を与えるかについても合わせて検討を行っていく。
次年度使用額は、分子生物学実験および生化学実験の試薬に用いる。
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