研究課題
当研究は、日本人の5人に1人が罹患する変形性膝関節症の根本的治療のため、関節軟骨組織の包括的な評価方法を確立することを目的としている。当研究室で開発されたthermolysinによる可溶化で可能になった軟骨組織完全可溶化法を用い、ラット組織内高分子成分のグルコサミノグリカン(GAG)とコラーゲンを中心に定量的解析を行っている。コラーゲンの定量的解析には、コラーゲンに特有のハイドロキシプロリン(HP)量を測定した。すでに発生・成熟・老化過程におけるこれら高分子成分の経時的変化について解析したことを報告しているが、その結果、成熟段階によって、軟骨組織のマトリックスを構成する高分子成分比は一様ではなく、GAG/HPの構成比は発生・成熟段階ごとに大きく異なることが示唆された。GAGとコラーゲンの局在について発生段階ごとのサンプルを採取し、おおよその組織学的な局在の傾向を把握しているが、これらの定量的解析結果は組織学的な変化とは必ずしも一致しているものではなかった。一方で、関節軟骨は出生後の成熟過程でその組織像が大きく変化する(リモデリング)が、その変化に伴って、細胞密度も成熟段階ごとに大きく異なっていた。H29年度までのところで、成熟過程における経時的変化について、関節軟骨組織の乾燥重量当たりのマトリックス構成成分とともに、DNA量についても解析し、各発生段階において組織像とともに比較し、関節軟骨の包括的評価を行う指標になりうるのかを検討した。その結果、比較的均一に見える新生仔期までの発生段階の関節軟骨組織が、生化学的に解析したGAG/HPの構成比を比較すると、その発生段階によって著しく変化するため、GAG/HPの構成比が未成熟な組織を評価する指標となりうることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
すでに昨年度の報告で、GAGとコラーゲン成分の定量的解析を行ったこと示したが、H29年度は組織学的な解析、GAGとコラーゲンの局在について発生段階ごとのサンプルの傾向を把握し、免疫組織学的な解析を進めた。組織学的評価とH28年度の進捗状況で報告したGAGとコラーゲンの定量的解析結果と比較解析し包括的な関節軟骨の指標を検討した。H30年度は、コラーゲンの架橋解析についてとグリコサミノグリカンの二糖解析を行う。現在すでに包括的なコラーゲン架橋解析法の開発とグリコサミノグリカンの二糖解析の実施に向けて、LC-MSを使った条件設定などの準備が進めているところである。H30年度中には結果が出そろい、より詳細な包括的評価が可能になる予定である。
本研究の目的は関節軟骨組織の大部分を占めるマトリックス成分について発生・成熟・老化過程の経時的な変化に関する詳細なデータが蓄積することで最終的には関節軟骨の包括的な評価方法を確立することである。H30年度計画として、グリコサミノグリカンの二糖解析とコラーゲンの架橋解析を進めることで、より詳細かつ包括的な関節軟骨の評価方法の確立を目指している。二糖解析については当研究室ですでにLC-MSを使った解析法が確立されている。架橋解析はLC-MSを使った解析法の条件設定中であるが大まかに解析条件を決定する見通しがついており、おおむね順調に計画が進む予定である。現在のところ、研究を遂行する上での予定を変更しなければならない点は特になく、順調に進められると考えている。
当教室ではすでに二糖解析の解析条件を確立できていたため、先に見通しのついていなかった架橋解析の条件設定を始めた。その結果、H29年度中に開始予定だった二糖解析ができず、昨年度分購入予定だった二糖解析関連試薬を購入できていなかった。しかし、架橋解析の条件設定の見通しもつき、二糖解析の条件設定はできており、サンプルもすでに採取されている。今年度購入予定の消耗品、試薬と昨年度分の二糖解析関連試薬を合わせておおむね研究計画通りに研究を遂行できる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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