本研究は関節軟骨組織の包括的な評価方法を確立することを目的として、関節軟骨組織の大部分を占める細胞外基質について解析した。当研究室で新規に開発されたthermolysinによる可溶化で可能になった軟骨組織完全可溶化法を用い、関節軟骨組織の細胞外基質の主成分である高分子グリコサミノグリカン(GAG)とコラーゲン(COL)の関節軟骨の定量的解析及びCOLの架橋解析を行った。COLの定量的解析には、COLに特有のハイドロキシプロリン(Hyp)量を測定し、架橋解析ではピリジノリンを測定した。 成熟過程における経時的変化について、雄ラット膝関節軟骨組織の乾燥重量当たりのGAGとCOLの量とDNA量について解析した。成熟段階ごとの組織像との比較を行い、関節軟骨の包括的評価を行う指標になりうるのかを検討した。解析の結果、成熟過程において、関節軟骨組織の細胞外基質を構成する高分子成分比、GAG/Hypは成熟段階が進むにつれて小さくなった。これらの定量的解析結果は組織学的な構造変化と必ずしも時期が一致しているものではなかった。すなわち、組織学的には比較的均一に見える比較的早い成熟段階の関節軟骨組織において、生化学的に解析したGAG/Hypの構成比は著しく変化しており、GAG/Hypの構成比が局所的な組織像では発生段階の判断が難しい未成熟な組織を評価する指標となりうることが示唆された。一方で成熟した層構造が形成された後の発生段階の組織像ではGAG/Hypの変化もほとんどなくなり一定に落ち着いた。さらにCOLの架橋構造の指標となるピリジノリンについての解析を行った。ピリジノリンの相対量は組織像やGAG/Hyp構成比の変化が少なくなる成熟した段階以降においても顕著であった。これらの指標は発生段階ごとに一定の値を示し、関節軟骨の包括的評価を行う指標として有効であると考えられた。
|