本研究ではGADD34遺伝子欠損(KO)マウスが加齢とともに脂肪肝発症やⅡ型糖尿病を発症する原因の解明を行い、これまで報告されてきたGADD34の機能とは異なるインスリン受容体からのシグナル伝達系を制御している可能性が明らかとなった。2~12ヶ月齢のマウスを使ったin vivoの刺激実験、肝臓細胞を用いたin vitroの実験では、若齢のGADD34 KOマウスでインスリンシグナル伝達系が亢進しており、6ヶ月齢以上になると肝臓細胞でのインスリンシグナル伝達系が低下した。MEF細胞では継代培養の回数を経るに従って、GADD34 KOでインスリン抵抗性を示すことが明らかとなった。さらに、本研究ではGADD34が機能するメカニズムを解明するために、GADD34の機能部位の特定を目指した。これまでの研究で、GADD34はInsulin/IGF1受容体やG-CSF受容体のシグナル伝達系の受容体付近で関与している可能がわかっている。そこで最終年度では、GADD34が細胞膜そのもの、あるいはその付近で機能している可能性を検証した。特にGADD34と膜や受容体のタンパクの結合について検索するために、HEK293細胞にGADD34のベクターを導入して強発現させ免疫沈降を行ったが、結果は芳しくなく、GADD34の結合状況について解明するに至らなかった。しかし、CaveolinやCavin1(PTRF)の免疫染色でGADD34 KOとWTで発現量が異なることや、電子顕微鏡の観察結果からGADD34 KOマウスでは加齢に伴って、細胞膜に局在するヘテロクロマチンの著しい変化が認められた。 以上のことから,本研究ではGADD34が加齢に伴う膜構造の変化を制御することで、膜に存在する受容体からのシグナル伝達系を制御する可能性が明らかとなった。しかし、制御メカニズムについては今後のさらなる検討課題である。
|