研究課題/領域番号 |
16K01840
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
横田 隆 日本医科大学, 先端医学研究所, マネジメントスタッフ (30445829)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 水素 / DNAマイクロアレイ解析 / メタボローム解析 / 抗酸化物質 |
研究実績の概要 |
現時点において、心停止蘇生後に対する唯一の治療として低体温療法があるが、その効果は十分とは言えず、脳・心臓後遺症のため社会復帰率も低く、生命予後は極めて不良である。一方、酸化ストレスは活性酸素種やフリーラジカルが過剰に発生することにより起こる。中でも毒性の高い・OHやPeroxynitrite (ONOO-) は、特に中枢神経等に悪影響をもたらすため、消去することが重要である。本研究は、心停止後症候群を全身性虚血再灌流障害と血管内皮障害のクロストークと捉え、その臓器不全発症機構のMicroparticlesに注目し、新規ラジカルスカベンジャーであるH2分子を用いたH2ガス吸入治療法が及ぼす作用点と蘇生後の生命予後および予後改善を目的に掲げた基礎的研究である。 申請者らは、これまでの動物モデルによる研究で、水素(H2)分子を溶解したH2水の点眼がhydroxyl radical(・OH)を選択的に消去することで急性網膜障害における神経保護効果を見出した。また、H2ガス吸入療法が心停止蘇生後の脳機能・心機能に対して優れた改善効果を有することを報告した。 そこで、本研究ではH2ガス吸入療法や低体温療法及び食品由来抗酸化物質投与後の免疫系生体変動や血管内皮障害のクロストークを介した臓器不全発症機構に及ぼすH2分子の作用と生体内機序について網羅的に解明し、H2分子の包括的検討と治療標的の探索を目指している。 平成29年度は、このラット心肺停止モデルにおいて分子状水素および低体温療法が生体内代謝径路に与える影響を調べるため、遺伝子の発現(トランスクリプトーム)、タンパク質の解析(プロテオーム)、代謝物質の解析(メタボローム)を行い、分子状水素の作用を包括的、網羅的に生体内分子での解析を行っている。また、H2ガス以外の抗酸化物質による生体内における種々の代謝経路に与える影響を網羅的に解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Wister STラットを用いて、6分間の循環停止後に蘇生させる全身性虚血再灌流傷害モデルを作成し、実験グループには対照群、H2吸入群、低体温療法を併用したH2+低体温群および天然由来抗酸化物質による経口投与群を作製した。これらラット心肺停止モデルにおいて分子状水素が生体内代謝径路に与える影響を調べるため、本年は全身性虚血再灌流傷害後の脳・心臓・肝臓を摘出して各組織中のmRNAを抽出・精製し、DNAマイクロアレイによる心臓および脳組織中の遺伝子解析と脳・心臓・肝臓組織中のアミノ酸およびタンパク変化を調べるためにLC-MSを用いたメタボローム解析行っており、分子状水素および他の抗酸化物質の作用を生体内における種々の代謝経路に与える影響を包括的、網羅的に解析している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、心肺停止モデルによる全身性虚血再灌流傷害後の対照群、H2吸入群、低体温療法を併用したH2+低体温群および天然由来抗酸化物質による経口投与群における生体内での遺伝子変化やアミノ酸およびタンパクレベルでの生体内変化の結果が漸次得られてきたら、それらのデータを詳細に解析して、追加実験なども検討しながら全体の研究結果をまとめて最終的に論文や学会報告ができるように段階的に遂行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の組織におけるDNAマイクロアレイによる外部への委託研究の解析が次年度に繰り越したために予算の支払いを翌年度に繰り越した。
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