脳卒中または心臓発作が起こると、その影響が生体内全体への組織損傷に広がっていく。この脳や心臓に対する損傷は、血液の流れが遮断されて酸素が最初に枯渇した後、血流が回復して急激に酸素が生体内に戻ってきた結果であると捉えられている。これらの虚血再灌流傷害後の生体内への酸化ストレスによる影響は、重大な健康負担であり予防するための選択肢は限られている。 全身性虚血再灌流障害による脳・心機能不全は、酸化ストレスの過剰発生、全身性炎症反応の進展によって起こる酸化的損傷であり、活性酸素種やフリーラジカルが過剰に発生することにより増悪する。中でも毒性の高い・OHやPeroxynitrite (ONOO-) は、種々の生活習慣病や加齢変化の進行等に悪影響をもたらすため、消去することが重要である。本研究は、心停止後症候群を全身性虚血再灌流障害と捉えて、新規ラジカルスカベンジャーであるH2分子によるガス吸入治療法が及ぼす作用点と蘇生後の生命予後の改善を目的に掲げた基礎的研究である。これまでの研究で、このH2ガス吸入療法が全身性虚血再灌流後の脳機能・心機能に対して優れた改善効果を有することを報告した。現在、H2分子が優れた抗酸化物質としての有効性が認められ、心肺停止症候群患者の虚血再灌流障害に対するH2ガス吸入療法の臨床研究が開始されている。 本研究の令和元年度は、このラット心肺停止モデルの全身性虚血再灌流障害において、H2分子が生体内代謝径路に与える影響を調べるため、生体内の遺伝子発現変化や代謝物質の解析を行い、障害後の予後改善に及ぼすH2分子の作用点を明らかにするため包括的、網羅的な解析を行っている。
|