本研究では、ヒト肝組織試料を用いて、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:以下NASH)について、マイクロアレイによる網羅的な発現解析を行い、発現変動遺伝子クラスターと発現調節機構の解析により、NASHの様々な分子病態を明らかにする。 我々は医学的理由から減量手術(bariatric surgery)を受ける日本人高度肥満患者約100名を対象に、事前に同意を得た上で、術中に直視下肝生検を行い、肝組織試料について発現解析を行った。組織学的所見からNASHまたはNASHに矛盾しない症例が8割以上あり、多くはボーダーラインあるいは軽度NASHであったが、線維化が進行して術前には診断できなかった肝硬変に至る症例、いわゆる「burned-out NASH」の症例も存在し、幅広いステージの組織を解析することがきた。 組織を急速凍結することにより、十分な量と質を持つRNAを得ることができた。Agilent社 SurePrint G3 Human GEマイクロアレイを用いたmRNAの網羅的解析を行い、NASH肝において発現が変化する遺伝子、あるいは各ステージに特徴的な変化を呈する興味深い遺伝子を得た。またunsupervised解析により、さまざまな機能的遺伝子群(炎症、脂質代謝、細胞増殖、線維化など)が発現変動クラスターを形成し、いわゆるmultiple parallel hits hypothesisに矛盾しない結果であった。興味深い遺伝子としてAKR1B10、AKR1B15そのほかをとりあげ、ヒト肝実質細胞株及び肝星細胞株を用いて、サイトカイン、脂質、低酸素、小胞体ストレス、酸化ストレスなど、さまざまなシグナル経路による遺伝子発現調節機能を詳細に解析した。新規診断法の開発へ向けて、血中物質との対応やマイクロRNAとの関連の解析を進めている。
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