研究課題
運動による各組織への機械的な刺激は固体の恒常性維持に貢献することは広く認知されつつある。このことは、細胞に対するストレッチ実験においても確認されていることである。しかし、個体レベルにおける他動的メカニカルストレスの効果は、どの程度刺激が身体や各組織に反映されているかは不明なことが多い。本研究ではこれまでのマウスを用いた予備実験において他動的メカニカルストレスは神経支配下にない筋組織においてもその筋萎縮抑制効果があること、また細胞培養実験でも同等の環境を再現し、メカニズムの細胞・分子レベルにおいて解明することを目的としている。初年度の目標は片下肢坐骨神経切除を施したマウスの術側足に対し、他動的メカニカルストレス負荷を定量的に加え、他動的メカニカルストレスと筋萎縮の程度の関係を定量化するための実験系の構築であった。予備的実験では自発的に他動的メカニカルストレスが加わった群と、背屈位に固定化された群との差が生じていたことが示唆された。このことを定量的に全てのマウスが他動的に背屈・底屈を繰り返し他動的にメカニカルストレスが加わる飼育系へと変更することで、作業仮説であった他動的メカニカルストレスの関与の計測を目標とした。本実験系にて他動的メカニカルストレスは、神経支配の有無に関わらず明らかに筋萎縮を抑制することが確認されたが、下肢不動化期間に依存して他動的メカニカルストレスの効果は低下し、長期間では他動的メカニカルストレスは筋萎縮をさらに亢進させることが明らかになった。このことは、筋組織中の線維芽細胞の増殖性と相関があることから、筋組織中の線維芽細胞の増殖性が不動期間中に大きく変化した結果であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
目標としていたモデル実験系はおおむね達成できたが、他動的メカニカルストレスについては定性的な知見を得るに止まっている。一方、筋組織切片解析では予期しない結果であったものの、他動的メカニカルストレスに関する新しい知見を得ることが出来た。また、モデル培養実験系の確立はおおむね達成出来た。生化学的な実験は可能であったが、モデルマウス実験系において線維芽細胞についても実験を進めていく必要性がある。計画当初に予定していた実験に追加の必要性がでてきたものの、おおむね当初の予定通りに進行している。
初年度は目標としていた動物実験モデル、細胞培養実験の確立、実験試料の調達について、おおむね達成できたため、次年度は計画当初通り生化学実験をこない関与しているシグナルカスケードの探索を行う。ただし、計画当初については筋細胞のみに着目していたた、初年度より組織内の線維芽細胞の走化性、増殖性やリモデリング能力について検討を行う必要が出てきた。本年度は計画当初、筋サテライト細胞を用いた実験について精力的に行うことを検討していたが、次年度の変更点としては線維芽細胞の特徴についてまず検討を行い、筋細胞と線維芽細胞の相互作用についても検証仮題として進めていく。
すべて 2016
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Journal of Cell Science
巻: 129 ページ: 3574-3582
10.1242/jcs.189415