研究課題/領域番号 |
16K01865
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大倉 得史 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (70389401)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 民営化 / 市場化 / 保育制度 / 子どもの育ち / 保育環境の変化 / エピソード記述 / 現場との対話 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、子ども・子育て支援新制度によって保育サービスの自由化・多様化が促されたことによって、子どもや保護者の生活、あるいは現場の保育にどのような影響が出ているかを調査することである。研究計画はA)全国各地の保育施設に対する大規模アンケート調査、B)新制度の影響を強く受けたと思われる保育施設の保育者、保護者への聞き取り調査、C)子どもの姿の変化を知るための実地観察という3本の柱から成っている。 平成28年度はこのうちのBの一環として、民営化された元公営保育所の保護者らに対する聞き取り調査を進めることができたのが大きな成果だと言える。その中で、民営化に伴う保育士の総入れ替えや保育内容の大きな変化によって、一部の子どもに心身の不調などの深刻な影響が出ていること、子どものことを考えて転園を決断し、生活スタイルを大きく変える保護者がいることなどが明らかになってきている。それを踏まえ、子どもに悪影響を与えないような法制度の在り方を提言する論文をまとめた(投稿審査中)。 また、Cの一環として、認定子ども園への移行を翌年に控えた民間保育園を訪れ、現在の保育の状況、子どもの姿などを実地に観察することができた。この園が今年度より認定子ども園になったことで、保育内容や子どもの姿がどう変化してくるのか、追跡的に実地観察を行っていくことができる予定である。また、子どもの姿(特にその内面の変化)を捉える上で必要になってくる「エピソード記述」と「現場との対話」のあり方について、日本質的心理学会においてシンポジウムを開催し、他の研究者や実践者とともに知見を深め合うと同時に、共著を出版することができたのも成果の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の3本の柱のうち、Aの計画については、平成28年度にアンケート用紙を作成・配布する予定だったが、それがまだ実現できていない。これは、シンポジウムや研修会等の場で出会った何人かの保育施設長らの話を聞く中で、子ども・子育て支援新制度の影響を強く受けているのは従来の認可園よりも小規模保育事業や家庭的保育事業等ではないか、逆に都市部と違い地方の農村部においてはその影響は限定的ではないかといったことが見えてきて、当初計画していたアンケートの項目の練り直しを迫られたためである。 現在、アンケートの配布先を小規模保育事業や家庭的保育事業等にも広げるのかどうか、農村部の保育施設の状況にふさわしい質問項目とはどんなものか等について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の3本の柱のうち、Bが最も順調に進んでおり、子ども・子育て支援新制度による影響を明らかにするという研究目的に沿ったデータが得られていると考える。したがって、今年度はこの調査を認定子ども園化した保育施設や企業の保育施設に対しても(当初の計画通りに)行い、現場の声をより幅広く収集していくことにする。 一方、やや遅れているAの調査については、知己の関係にある施設長等に対する予備的な聞き取り調査を行い、農村部の保育施設の置かれた状況も踏まえた適切なアンケート項目を作成する。また、小規模保育事業や家庭的保育事業等も調査対象に加えることが可能であるのか否かについて、研究期間や予算等と照らし合わせながら検討する。そして、アンケートの実施方法が確定次第、早急にこれを実施する。 さらに、Cについては、Bの聞き取り調査に協力してくれる保育施設を中心に実地見学を行い、保育施設のタイプごとに子どもの姿がどう変わってくるのかをエピソード記述等によって把握していく。その中でも特に、今年度から認定子ども園化となった保育施設や民営化された元公営の保育施設の協力をあおげる目途がついているので、これらに対する縦断的な実地観察は重視していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に実施予定だった大規模アンケート調査について、質問項目の練り直しを迫られたため(現在、項目を再検討中)、当初計画においてアンケート郵送費として計上していた60万円や、封筒代等の6万円が未使用である。また、保護者等への聞き取り調査については、データをすべて集約してから業者に文字起こしを依頼したため、発注が遅くなり、当初計画していた24万円のうちの一部が未使用となっている(現在、業者にて作業中)。結果、計84万6千円余りが未使用となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
大規模アンケートについては、現場の実態についての予備調査を踏まえ、適切な項目および対象施設を早急に確定し、全国の保育施設に向けて郵送する予定である。その実施のために66万円を使用する。また、保護者への聞き取り調査で得られたデータはすでに文字起こしを業者に依頼しており、平成29年度4月末には納品、約10万円の請求が来る予定である。その他平成29年度分支給額と合わせた残金は、当初の計画通り、これから実施する各保育施設への聞き取り調査に係る旅費、謝金、文字起こし等に使用する。
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